Vpon JAPAN V字回復のためのデジタルシフト

Vpon JAPANは、アジア旅行者データを活用した集客広告やデータ分析を行っている。インバウンドに特化したデータカンパニーである同社マーケティング推進室室長の有田元則氏が登壇し、デジタルシフトが反転攻勢の鍵をにぎる、コロナ後の観光再生について語った。

有田 元則 Vpon JAPAN マーケティング推進室室長

コロナ後、
訪日旅行は復調を期待

日本の観光産業は、コロナ危機により大きなダメージを受けた。2019年6月以降、月別訪日外国人旅行客数は250万人前後で推移していた。これが、新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年2月は150万人を下回り、3月は50万人以下にまで一気に減少した(JNTO統計値による)。入国制限のため厳しい現状にあるが、近い未来の入国制限解除後の訪日客数V字回復に向けて、今この時期に何をすべきか考え、インバウンド対策に取り組む必要がある。

世界に目を向けると、中国では3月時点で新型コロナウイルス収束に向かっており、2月には10%以下にまで落ち込んでいた観光業(宿泊業の営業再開率)が、5月上旬の時点で76%にまで回復している。台湾や香港など中華圏では、中国に遅れて4月に感染者数ピークを迎えるも4月末には収束に向かった。一方、ヨーロッパやアメリカでは新型コロナウイルス感染者数はなだらかな減少傾向ではあるが、特にアメリカなどでは依然として海外旅行を再開するフェーズに至ってはいないと考えられる。

図1 中国の観光業再開率

中国では2月半ば以降、観光業の営業が再開され始めた

出典:美団点評

 

今後、新型コロナウイルス危機の収束後には何が起きるのだろうか。世界規模での観光旅行客の獲得競争激化、宿泊や移動など旅行時における衛生対策に重点を置くようになること、などが考えられる。最近ではこのような生活の変化は「Withコロナ」「新しい生活様式」とも呼ばれている。観光客を受け入るホテルなどでは、徹底した感染対策をとっていることをPRする企業も出てきた。観光客側は安心して旅行したいという願望が高まったりすると考えられ、団体旅行よりは個人旅行が好まれる傾向が高まると予想される。

既に、訪日旅行復調の兆しもある。JNTOによる香港向けFacebookでは日本の風景などを投稿しており、1投稿あたりの平均いいね数を2019年と今年の3月で比較すると69%上昇している。平均シェア数や平均コメント数も同様に上昇しており、日本への関心、期待が高まっていると考えられる。

図2 1投稿当たりの平均いいね数(JNTO Facebook、香港)

香港では、1年前よりも日本の風景などのSNS投稿へ関心が高まっている

出典:Vpon

 

これを受け、日本各地の自治体がリカバリープロモーションに着手している。いくつか例を上げると、浜松市や伊東市のYouTube動画プロモーション、中部エリアのWEBコンテンツによる美しい風景の配信、宮城インバウンドDMOの桜の動画コンテンツ配信などがある。海外でも、世界旅行ツーリズム協議会がSNSキャンペーンを開始。香港政府観光局はプロモーション費に55億円を投じるという。入国制限により、訪日したくても入国できない現状では、関心層に向けたこのような情報発信が重要になると考えられる。

プロモーションの手法も変化が見られる。コロナ禍の状況を踏まえた約30団体へのヒアリングでは、広告を紙媒体からWEB/SNSへシフトするなどの回答があがった。限られた予算を、より効率的なデジタルマーケティングに振り向ける動きは加速していると見られる。

V字回復への2ステップ

コロナ後の観光業の復活に向けた取組は、①課題特定と②解決実行という2段階のステップで整理する必要がある。

まず、①の課題特定について、コロナ禍により問題が山積して見えるが、まずは従来の課題(観光客の滞在日数、時期、場所、興味など)を特定し、明確化することが、今すべきことであり、今後の発展につながる。

その際、デジタルツールを用いることで、様々な情報が可視化できるようになる。例えば、位置情報、利用アプリ、端末言語などの様々なデータを活用すれば、訪日旅行者がいつどこから地域に入って、どこへ出て行くのかなどが分かる。これらのデータをうまく活用できれば、事業者が抱えている課題の原因の把握に繋げられる。

そして課題を明確化した後は、②解決実行フェーズとしてPDCAを回す。どの時期、どの国にどの旅行形態をどのように訴求するかなど計画し、集客プロモーションの実行、プロモーションの効果測定、その後の改善につなげていく流れである。例えばターゲットは欧米豪よりは回復の早いアジア、旅行形態としては感染拡大のリスクを踏まえ団体より個人旅行を、訴求メッセージはコロナ禍から回復していないため予約を促すよりは訪日喚起や情報提供、などと計画を立てていく。

並行して、観光商品開発などコンテンツ制作や、訪日喚起の情報発信なども、新型コロナウイルス収束前の今しておくべきことと言える。

デジタル活用で標的を絞る

有田氏は、デジタルツールとデータを活用し、Vponが地域と課題解決に取り組んだ2つの事例について紹介した。

1つは石垣島などの沖縄の離島において、冬の閑散期の誘客を成功させた事例。沖縄県は、年間300万人を超える訪日外国人客を集める人気の観光地だ。しかし、本島への集中や、夏が繁忙期になるという課題があった。

そこでまず、沖縄訪問の多い台湾人のうち、離島へ訪問している旅行者の興味や行動特性を分析。その結果、台湾の地方に住むスポーツ好きというターゲット層を導き出した。そして、そのターゲット層に合うように閑散期である冬の離島で楽しめるアクティビティの訴求と集客広告を実施した。

次に、広告に触れる前後での、離島への興味の変化についてアンケートを実施した結果、閲覧後は興味度合いが10%上昇したことがわかった。また、広告をクリックしたユーザーのうち実際に訪日した旅行者は1.7%、そのうち沖縄を訪問した人は7.5%と、定量的な検証も可能になった。

もう1つはスノーリゾート企業の事例。年々、個人手配での訪日旅行者が増加する中で、スキー客を取り込むための、集客プロモーションに課題を抱えていた。

この事例ではまず、ビッグデータを活用し、旅マエの段階で日本の旅行を検討している香港・台湾ユーザーと昨年の冬季にニセコ、白馬、湯沢などのスキー場にいたユーザーをターゲットとして選定した。次に、日本各地のスキーシーズン情報、東京からの近さ、中国語を話す先生がいるスキー場、ホテル情報などを盛り込んだ、ネイティブ目線のサイトを制作した。その後の分析では、台湾と香港で関心を集める情報が異なるなど、地域による違いを把握できた。

有田氏は「観光分野はあらゆるフェーズでデジタル活用の効果が期待でき、その中でも特に顧客の見える化とターゲティングが最も取り組みとして重要です。ぜひ今できることを実施しV字回復に向けて備えていただければ」と、講演を締めくくった。

 

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