城崎デジタルサミット2020 観光事業を面でデジタル化

観光地経営のデジタルトランスフォーメーションは、事業の効率化やサービスの質向上につながる。規模が小さい事業者が多いまちでも、システムやマーケティング基盤をシェアするITの面的導入は有望。地域で結束しデータを集め、顧客に合ったサービスを提供する観光業の実現が、城崎温泉で議論された。

パネルディスカッションでは、城崎温泉の事業者同士の協力や、但馬信用金庫のキャッシュレス化推進支援の取組などが紹介された。コロナ対策もあり、聴講は基本オンラインでの参加となった

観光地の宿泊、飲食、小売、各種アクティビティをいかにして繋げ、より便利で楽しく、個々の観光客にフィットした体験を提供していくか。そのために、地域の事業者のデジタル化をいかに進めていくか。2020年3月19日に、兵庫県豊岡市の城崎温泉で開催された「城崎デジタルサミット2020」では、観光関連事業者と観光テックのリーダー企業からの参加者が集まり、議論した。またインターネットを介しても数多くの城崎豊岡地域の観光事業者や金融機関が参加した。

観光地経営もデータドリブンに

サミット冒頭では、城崎温泉観光協会会長の高宮浩之氏が「城崎温泉は今年、開湯1300年を迎える。デジタルの力を使い、その魅力を広く見せていきたい」と挨拶。コロナウイルス感染症の拡大に伴う宿泊キャンセルの増加は打撃だが、街がまるごと焼失した1925年の北但大震災から立ち直った城崎温泉であれば、「乗り越えていける」と語った。

JTB法人事業本部事業推進部地域交流事業チームの徳政由美子氏は、JTBが販売している「エリアアナライザー」を紹介した。DMOなど観光地マネジメントを目指す組織向けのツールで、SaaSにSalesforceを用いた、地域観光マーケティング用クラウドサービスとなっている。

徳政氏は、「観光地のマーケティングは、ウェブサイトに広告を表示するだけ、というものから、顧客の情報をもとに次の施策を考える蓄積型の事業へ進化しているところ」と現状を紹介。近い将来、魅力的なPRや価格の安さだけではなく、個々の顧客に合わせた観光商品のレコメンドの能力と、その精度が問われるようになると予測した。

旅館と移動のDXには成果が出る

旅館業に特化した業務管理システムである「陣屋コネクト」を提供している、陣屋代表取締役の宮﨑知子氏は、同システムの導入の状況や、現場での使い方を紹介した。陣屋コネクトは、宿泊の予約管理や会計、接客、食材の仕入れや従業員の勤怠管理、設備管理など、旅館の経営・マーケティングに必要な情報を一括管理できるシステムで、現在約350施設程度が利用している。鶴巻温泉で宮﨑氏らが経営する温泉旅館・陣屋のために開発し、他の旅館へと広がっていったものだ。

宮﨑氏は、「バックヤード業務の時間を圧縮し、旅館の魅力である『接客』に時間を使いたいと考えています」と話す。このため、陣屋では日々新しい仕組みの導入を進めている。例えば、IoTを活用して、大浴場のタオル交換やごみ回収のタイミングを把握する、湯温管理にセンサーを設置する、などの取り組みだ。

着手から10年が経過し、宮﨑氏は旅館のデジタルトランスフォーメーション(DX)の効果を実感している。2010年の陣屋コネクト導入時に2億9000万円だった陣屋の売上は、2018年には6億1400万円と、2.1倍になった。利益率も大幅に改善し、税引前当期利益(EBITDA)率は2018年に30.1%となった。ちなみに、日本の大手ホテルのEBITDA率は多くが10%を下回っている。ただし、施設単体でのDXは、地域の小規模旅館には厳しい側面もある。経営者のリーダーシップが必要で、デジタルリテラシーのある人材も確保しなければならないためだ。

宮崎氏は、「これまで陣屋コネクトの導入は、施設ごとが主でした。今後は地域での面的導入による地域の観光経営合理化が、中小事業者の生き残りを考える上では必須となります。エンジニアやデジタルマーケティングのプロ人材は数が限られており、コスト的にも1施設での雇用は難しいため、地域でシェアするのは理にかなっています」と話した。この場合には、地域のDMOなどがエリア共通IT基盤を導入し、無償でサービスを旅館に提供、送客手数料を旅館がDMOに支払う、といった形の運営などが考えられる。今回のサミットの舞台となった城崎温泉は、小規模な旅館が多く、地域の事業者が結束している。このような特長を持つ地域は、IT基盤の面的導入が有効だ。

また、WILLER取締役の横溝英明氏は、交通機関のDXであるMaaSについて展望を語った。同社は2020年2月から、地方郊外型MaaSの実証実験を京都丹後鉄道沿線エリアで開始。導入コストが安価なQRコードによる決済・認証によって、キャッシュレス・チケットレスが実現し利便性が向上するだけでなく、公共交通機関を使って移動している顧客の潜在的な欲求が可視化されつつあるという。

「消費者はすでに、オンラインとオフラインが融合した世界で生きている。若い人のコミュニケーション手段はLINEやチャットが主流になった。デジタルの世界の変化に合わせて、マーケティング手法を柔軟に変動させなければなりません」と同氏は話した。

城崎デジタルサミットには、オンラインで数多くの観光事業者や金融機関が参加した

デジタル化でコロナ後に備える

その後のパネルディスカッションでは、一般社団法人サービスデザイン推進協議会理事の平川健司氏がコーディネーターを務め、地域が一丸となって提供する良質な顧客体験の創造を議論した。平川氏は、「駅は玄関、道は廊下、旅館は客室、土産屋は売店、外湯は大浴場」と、温泉地全体を1つの旅館に見立てる城崎温泉のコンセプトは、海外の成功事例と比較しても優れていると語った。

さらに、コロナウイルス感染症の影響を踏まえて、観光経営のデジタル化が有事の際の生き残りにも役立つことも指摘された。例えば過去の災害時に、雇用調整助成金や給付金など各種の支援を観光地の事業者が受ける際、従業員のシフトがデジタルで管理されているか否かで集計の手間に大きな差が生まれている。

さらに重要なのは、流行が収束した後、いち早く戻ってくる顧客層は誰かを考えることだ。セールスフォース・ドットコム エンタープライズ金融公共営業統括本部 デジタル共創営業部部長の井口統律子氏は、「有事の後に最も強いのは、ファンである顧客との関係を維持している企業であり、地域」と指摘する。過去に来訪の履歴があり、地域に好意を持っている人にもう一度来てもらうことができる観光地は、大災害の後でもいち早く復活できる。旅行者が減り、時間に余裕のある現在のタイミングは、地域のデジタル化を進め、流行が終息した後の発展に備えるチャンスと言える。

宿泊、飲食、小売りなどの小規模事業者が、業種の垣根を超えて協力し、風情ある温泉地を守ってきた城崎温泉。まちの雰囲気を守りつつ、デジタル導入で業務を効率化し、将来世代に残すことに挑戦している。

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