ITで旅館業を持続可能に デジタル化で作るおもてなしの余裕

大正15年創業の温泉旅館として、日本のおもてなしを提供する但馬屋。高度な接客の実現に役立つのがICTによる効率化だ。地域をカバーすることで、温泉街全体の価値を向上する。

柴田 良馬 但馬屋 代表取締役

城崎温泉の但馬屋は、12室で運営する温泉旅館だ。その4代目として代表取締役を務める柴田良馬氏は、宿泊業の同業組合では ITソリューション開発委員会の委員長を務め、但馬屋にはいち早くSalesforceを基盤にしたクラウド型ホテル・旅館情報管理システム「陣屋コネクト」を導入。和風旅館のIT化に尽力している。

地方の中小規模の旅館経営では、ITツールの活用は進んでいないと柴田氏はいう。「旅館を経営するうえでも、経営に関わる数値の把握は当然重要ですが、入力するシステムがばらばらであったり、未だに手書きの台帳を使っているなど、数値を戦略的に活用できていない旅館が多いのが現状です。多くの中小旅館が、悩みつつも対策を打ち出せていません」。

老舗旅館にIT導入
おもてなしの暇を作る

柴田氏がシステム導入を考えたのは、旅館の生き残りを左右する「接客」にできる限りの資源を割けるようにするためだ。

紙で行っていた旅館の事務作業をデジタルに移行するだけでも、節約した時間を対顧客の様々な活動に充てられる。宿泊者からお土産やチップをもらった客室係が手書きでお礼状を出す、といったアナログなサービスも、実現できるようになったという。また、調理場スタッフが予約状況をリアルタイムに把握できるようになり、発注業務や食材ロスの軽減に繋がった。

「旅館の経営者・従業員とも高齢化しており、新しい仕組みの導入には抵抗が大きいです。簡単に使えることは非常に重要です。しかし但馬屋では、68歳の会長も今は『便利になった』と話しています」。ただし、小規模旅館としてシステム導入コストの負担は大きかった。全国への普及を考えると、共同購入による価格の低廉化や自治体などの補助は必要だと考えている。

今後の但馬屋でも、ITをさらに活用したいと柴田氏はいう。若手社員の採用を強化している但馬屋では、経験の浅い客室係もハイレベルな接客を求められる。そこで、仕事中も携帯を持たせ、陣屋コネクト内でのお客様情報閲覧やLINEなども活用して情報を素早く共有するようにした。さらに、業務データを集約し、1日ごとの経費を把握したり、月次決算の把握、中長期的なコスト分析を経営に役立てたいとも話す。

またIT化は、中小事業者が多い旅館というビジネスが、ホテルチェーンなどと競争する際にも必要だ。柴田氏は、個別の旅館のIT化の次の段階として、近隣の事業者の間をつなぐITサービス「宿屋EXPO」を立ち上げようとしている。これは、近隣の旅館同士で人材やサービスを再配置したり、備品の共同仕入れでコストを削減したり、といったことを可能にするシステム。陣屋コネクトと連動させることが可能で、温泉地の旅館全体をつなぐ、「面的」導入展開を目指している。現在、正式リリースのための準備を進めているところで、「実現すれば、地方の中小旅館が戦っていくうえで理想的なシステムとなります」と柴田氏はいう。

旅館同士の協力と併せて、観光地域経営の面からは、データに基づく地域全体のためのマーケティングが必要と柴田氏は指摘する。豊岡市が今後も観光客を持続的に集め、儲けを出しつつ発展していくためには、データ利活用が必要だ。「城崎は、まちが1つの旅館というコンセプトの温泉地です。例えば、町全体の予約状況を把握できれば、地域としてのレベニューマネージメントの実施が可能となり、宿泊代金のベースアップにも繋がり、企業収益に寄与すると思います」。

 

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