NTNグリーンパワーステーション 災害時の電源から防犯・見守りまで

災害の備えとして、非常時の電源設備への関心が高まっている。「NTNグリーンパワーステーション」は、風力と太陽光の自然エネルギーを有効活用した発電装置であり、LED照明と非常用電源を標準装備するほか、防犯監視カメラなどを付加することも可能という。開発企業のNTNと、減災・見守りシステムの構築に取り組む稲場教授に話を聞いた。

稲場圭信 大阪大学大学院 人間科学研究科共生学 教授

稲場 全国で災害が頻発する中で、地域の支え合いが重要とされ、「地域資源」を見直すことが問われています。災害はいつ発生するのか予測できず、完璧な備えができるといったものではありません。大災害で電力が失われると、全くの暗闇となります。

2018年の北海道胆振東部地震では、数日間もブラックアウトが起き、電力が戻らない中で被災者は大変な思いを強いられました。そういった中では、人々の不安が増幅します。テレビ、ラジオ、SNSなどの情報メディアが繫がらない。携帯電話は機能しない。わずかに電力が残っている人が、スマートフォンなどで情報を発信するわけですが、デマが拡散されるケースも多いわけです。被災地では、何が起きるか分からない状況下にあって、せめて道路、小学校、公民館、避難所や社寺などには独立電源で灯りを供給し続ける仕組みが必要ではないかと思います。

石川浩二 NTN 執行役員

石川 おっしゃる通りです。私どもNTNは2018年3月に創業100周年を迎え、次の100年を支える事業を作ろうということで様々なチャレンジをしています。その一環で、地産地消型再生可能エネルギーを使って何か新しい提案ができないかと取り組んだのが、風力と太陽光で発電した電力をバッテリーに充電し、夜間にLED照明を自動点灯する「NTNグリーンパワーステーション」です。上部に風力発電装置、その下にソーラーパネルを備え、電設工事が不要な独立電源により、蓄電した電力で避難路から避難場所へと誘導して照らすことで人々の安心を担保します。

NTNグリーンパワーステーションは防災のシンボルとして活躍

稲場 避難時に道が暗いと、足元が見えにくくなり、道路上の障害物や断面の凹凸などにより転倒する危険性も増加してしまいます。また、路肩が見えないことで、溝や用水路などに転落する危険性もあります。さらに、灯りのない道では、避難経路の標識なども見えなくなってしまいます。

石川 NTNグリーンパワーステーションは、照明だけではなく受電の端子なども出ておりますので、携帯電話の充電もできますし、ラジオも聞ける。オプションとして防犯監視カメラのほか、通信機器も取り付けられます。このように通常の照明以上に多用途の独立電源として活用できるのが特長の1つといえます。災害時は通信機能がシャットダウンするなど不安定な状況となる中で、地域のネットワークを形成できることは非常に役に立つと思うのです。

稲場 これまで個別にはあっても、1つのパッケージで様々な電力を供給できるという仕組みはなかったですね。災害時は暗闇の中で誰とも連絡が取れず、そんな中で余震が続く。家を失い、家族を失い、この先どうやって生きていっていいのか、不安感が錯綜するのが被災者の心理です。

そんな時にポッと灯りがあればホッとするし、日頃連絡をとる人達に使い慣れた携帯電話などで一言話せるだけで全然違うわけですね。このような機能が地域の主要なところにあれば、そこに行くだけで見守られている気持ちにもなるでしょう。また、平常時は防犯監視カメラで地域住民を見守るという仕組みは今の時代とても重要だと誰しもが感じているはずですね。

石川 太陽が出ず、風のない状態であっても約1週間は蓄電した電力で灯りを確保できます。現在は個別の要望からさらなる発電能力の向上と大型化にも取り組んでいます。

稲場 大型の風力発電は災害時に倒壊した例も多くあります。非常時の耐久性については?

石川 本機は耐風速60メートル、震度7の地震にも耐えられる構造になっています。昨年の台風では大阪南港で風速約60メートルに達し、車も数台が横転したような状態でしたが、本機はしっかりと発電し、照明機能も損傷なく、地震の揺れをカメラで撮影していました。

情報発信装置として活用

稲場 各都道府県では、自然災害を予測したハザードマップや指定避難場所の位置を示した地図アプリなども開発されているのですが、それらを日常生活の中で意識している人は少ないですね。ですから、日頃からそれらを「見える化」する活動が必要で、例えば地区の防災計画などを地域の人々と作っていく、自分の住む地域がどういった特性をもっているのか実際に街を歩いてみることが大事だと思います。

石川 本機は高さ6メートル、ホワイトカラーなので遠目からもよく目立ちます。過去に2016年ジュニア・サミットi n三重の応援事業として、NTNグリーンパワーステーション(10基)を置かせていただきました。また、三重県桑名市では、指定避難場所を矢印で誘導する看板も設け、避難路から避難場所まで誘導する流れなどを作らせてもらった事例もあります。独自の翼形状とベアリング技術の融合により発電中の音も小さく、周囲の住宅に迷惑をかける心配もありません。

稲場 誘導掲示板の役割を果たすだけでなく、別の情報が来たら新しい情報を随時流していくということも可能なのですか?

石川 大丈夫です。蓄電をベースに、余剰電力をどう使うかを多様に応用できます。販売開始からの約2年半でこれまで150機以上を設置し、その多くを自治体様でご活用いただいています。また、企業様のCSR的な役割や防災のシンボルとして設置されたり、企業の敷地外で地域の人の道標となるような場所に設置したりと様々にご活用いただいております。ご利用いただいている皆さまからは、実際の運転を通じて非常に静かなこともご評価いただいています。

防災・防犯への展開

稲場 安全な街づくりのためには国、行政、企業、市民とそれぞれがやれることは多々あります。例えば「ローリングストック」という、備蓄品を3分の1ずつ新しくしていく活動があります。

近所では日頃から顔の見える関係を築いて、備蓄した非常食を皆で食べてみたり、科学技術を分かりやすく紹介する講習会を開いたり、救命の仕方を訓練したりと「自助、公助、共助」のしくみを作ることが防災力を高める鍵だと考えます。

石川 子供たちを交えてゲーム感覚で学んでもらえると良いと思いますね。実際に目でみて活用するケーススタディーをしてもらえれば、非常時にも迅速に行動できます。

稲場 昨今は自然災害、防犯などを含めると不安材料は限りなくあるので、私の研究室では「未来共生災害救援マップ」というアプリを開発しました。全国の宗教施設、小学校、公民館、指定避難所などがデータと合わせてマップに映し出され、自分のいる居場所もGPSで表示できます。

NTNグリーンパワーステーションを通信機器と結んで、位置を見える化しておくと役立ちます。その地域の情報や観光情報が得られるなど、平常時にもどんどん使ってもらうコンテンツと併せて提供すれば、いざという時の防災に役立つと思うのです。

石川 今の世の中に必要なのは、平常時・非常時問わず有効な情報通信とモニタリング機能だと考えています。特に高齢者の徘徊問題は大きな課題で、こうした不安行動をする人を確認すれば、しかるべき場所にすぐ連絡が届くようなシステムを構築することが大変重要であり、我々の使命だと感じています。

稲場 情報時代といえども、大災害時には全てのアクセスを失い、情報発信する側でさえ、被災すると連絡が途絶えます。だからこそ、普段から支え合い、情報を双方向させていく道筋をつけることが急務だと思います。

防犯面では、人間のみならず、サル、イノシシ、ゴミステーションを荒らすカラスなどもAIで識別できますので、NTNグリーンパワーステーションのカメラ機能とうまく連動させることで、様々な社会課題にもチャレンジできるのではないかと思います。将来はこの端末がマルチホップ※の役割を果たし、被災地の外に通信を届かせ、文字情報などをリレーして安否確認などが行える、そんな仕組みへと繫がっていくことを大いに期待しています。

※端末自身が中継器の役割も果たすことで、長距離通信を可能にする技術

稲場圭信 大阪大学大学院 人間科学研究科共生学 教授、石川浩二 NTN 執行役員

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自然エネルギー商品事業部 事業推進部

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