乃村工藝社×北大 リノベーションと空間デザインで魅力再生

建築物のリノベーションと空間デザインでまちの魅力を引き出す乃村工藝社と、観光地経営に人材を供給する北大観光学高等研究センターが連携。国内外の観光客を惹きつける魅力ある観光地づくりに向けた議論や人材交流を実施する。

北海道大学観光学高等研究センター教授 西山徳明氏(左)、乃村工藝社取締役 第三事業本部事業本部長 牧野秀一氏

空間デザインを手掛ける乃村工藝社は、百貨店やホテル、大規模商業施設から、各地の美術館・博物館、万博をはじめとするイベントや展示施設まで、デザイン・施工を担ってきた。2003年に公共施設の指定管理者制度が導入されてからは、公営博物館・美術館などの運営も受託している。

乃村工藝社取締役 第三事業本部事業本部長の牧野秀一氏と、北海道大学観光学高等研究センター教授の西山徳明氏に、観光分野における産学連携について話を聞いた。

―――乃村工藝社は、2017年に北大観光学高等研究センターと連携協定を締結しました。その背景を教えてください。

西山 乃村工藝社とは、連携協定以前から、文化施設の整備の場で一緒に仕事をしてきました。この関係を発展させていくために、協定締結に至りました。例えば、2004年に沖縄県竹富島に環境省が開設したビジターセンター竹富島ゆがふ館。このビジターセンターは、最初から集客を考えて中身を作り、施設にも手を入れました。結果として年間入場者数15万人という大台を達成することに成功しました。

また、2019年度に着工予定の、札幌の赤れんが庁舎(北海道庁旧本庁舎)改修事業についても、乃村工藝社と協力して、基本構想を策定しました。この建物は重要文化財に指定されており、北海道の象徴ともいわれる重要な建築物です。北海道観光の目玉になるよう、国内外に向けた歴史文化・情報発信の拠点とするべく計画しています。まずは観光の目線で施設をとらえ、文化財の修理・保全も、そのニーズに合わせて実施される予定です。

牧野 乃村工藝社としては、博物館・資料館などのデザイン・運営で自治体との接点が増えたことから、観光という切り口で地域活性化に貢献したいと考え、連携協定締結を決めました。既に、弊社のプランナーが北大で講義するなどの人事交流を実施し、プロジェクトに対する教授陣からのアドバイスなどもいただいています。

―――乃村工藝社が手掛けた、その他の地方創生事例を挙げてください。

牧野 赤れんが庁舎のように、自治体の既存の施設を生かしつつ、新しい価値を作るプロジェクトとしては、富山市総合体育館の事例があります。この体育館の遊休スペースを改装し、タニタ健康プログラム・タニタカフェとスポーツショップ、スタジオを併設した「TOYAMA TOWN TREKKING SITE」としました。運営も受託しており、食育や体育など、健康教育イベントプラグラムを定期的に開催し、健康をサポートするという新しい公共サービスを提供しています。富山市民の健康寿命延伸や暮らしの質を向上させる役割を担う施設といえます。

また、1つの建築物にとどまらず、より広くまちづくりに参画した事例もあります。宮崎県日南市と乃村工藝社は2017年に連携協定を締結、幅広い分野で協力を始めています。特に飫肥(おび)城下町に残る古民家などの古い建築物の活用や、古い城下町ならではの文化体験の企画を実施しています。例えば、伝統的な和風建築物をリノベーションした高級旅館「季楽 飫肥」では、空間プロデュースとデザイン監修を担当しています。古くからの街並みを再生させることで、国内外の観光客を惹きつけ、移住・定住を促進しようというのが日南市の狙いです。魅力的な空間づくりでそれに貢献していきたいと考えています。

富山市総合体育館内にオープンした「TOYAMA TOWN TREKKING SITE」。スポーツショップ、カフェのほか、運動指導も提供している

―――観光分野の産学連携から、何が生まれるとお考えですか。

西山 文化財を用いた観光振興では、「昔から指摘はされているけれども、なかなか実行に移せない」タスクがいくつもあります。乃村工藝社の長所は、人材を割いてそのようなケースに付き合ってくれる柔軟性と力があることです。飫肥城下町の事例も非常に面白いと感じています。文化施設を飛び出して、地域課題解決につなげようというのですから。

乃村工藝社と北大観光学高等研究センターは、それぞれ異なるノウハウやリソースを持っています。北大がつながりを持つフィールドに乃村工藝社を引き込んだり、逆に乃村工藝社のフィールドに北大が進出していく、ということを、連携を通じて実現したいと思います。また、大学という中立な場で、日本の観光について一緒に考えることができるのも、協定の利点です。

牧野 東京オリンピック・パラリンピックに大阪万博と、国内でも大都市圏ではイベントが目白押しです。一方、様々な地域の博物館・資料館運営を通じて気づくのは、地域間格差が拡大しているという事実です。

人や資金などは大都市圏に集中しがちですが、観光という視点を取り入れることで、地方でも様々な取り組みができると考えています。この観点からも、北大との連携に大きく期待しています。

飫肥城下町の和風建築をリノベーションした高級宿泊施設には、囲炉裏や土間、かまどが備え付けられている。宿泊者が歴史や風土を感じられる空間を再生した

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HP:https://www.nomurakougei.co.jp/inquiry/form/domestic

 

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