ワンタッチで遠近を切り替え 「未来のメガネ」を三井化学が開発

最新テクノロジーを搭載し、日常生活の利便性を飛躍的に向上する新次元メガネを開発した、素材メーカー国内最大手の三井化学。単なる新商品ではなく、メガネ業界を一新させうるビジネス創出についての構想を、同社新ヘルスケア事業開発室の担当者に聞いた。

文・矢島進二 日本デザイン振興会

2018年2月に販売開始したTouchFocus。右フレームにある金属部に軽く触れるだけで遠近モードを切替えられる

素材メーカー初のBtoCブランド

現在、メガネのレンズは世界的にプラスチック製が主流である。三井化学はその原料を製造し、レンズ材料で世界シェア45%、更に高屈折率レンズ材料では世界シェア90%を占めるトップメーカーだ。日本で購入するメガネは、ほぼ同社製のレンズと言っても過言ではない。

以前はガラス製であったが、同社は1980年頃からプラスチックレンズ材料の研究を始め、「チオウレタン」で高屈折率を実現するレンズ材料MRシリーズを開発したことで、圧倒的なシェアを占める事業に成長させた。ガラス製の課題であった「牛乳ビンの底のようなメガネ」は死語となり、お笑いのネタにもならなくなった。

しかし、それだけ私たちの身近なモノをつくっていながら、素材供給に徹していたため、社名を一般的に見聞きすることは少ない。そんな同社が、初めて独自ブランドをたて、オリジナル商品を自社名で販売を始めたのが、次世代電子メガネ「TouchFocus(タッチフォーカス)」だ。

TouchFocusは、見た目ではわからない9層の特殊レンズ構成と、電子回路が内蔵されたフレームのON/OFFで、遠近モードの切替えが一瞬ででき、視界の歪みが少なく、遠方から近方まで広い視野を提供する。重さも従来のメガネと同等だ。

シリコンバレー発の事業を譲渡

TouchFocusの開発リーダー、早瀬慎一氏は「ワンタッチで遠近を切替えられるメガネは、実は我が社が世界初で開発したものではないのです」と、意外な事実を明かす。

「10年以上前、シリコンバレーのベンチャー企業ピクセルオプティクス社と、パナソニックヘルスケア社が共同で電子メガネを開発していたのです。商品が完成しアメリカでテスト販売を行いましたが、回路設計など機構に未解決な要素が残っていたため、半数が返品となり、約1年半で販売は停止。事業は失敗に終わりました」

三井化学はパナソニックにもレンズの材料を供給していたので、同プロジェクトの存在は知っていて、業界を一変するイノベーティブな取り組みであると注目していたそうだ。

しかし、2012年にパナソニックが経営不振に陥り、同プロジェクトの売却先を探すことになる。そこで買収に手を挙げたのが三井化学だ。電子メガネの開発従事者や特許を始めとする知的財産権、開発設備など、事業のコアとなる多くの資産の譲渡を受けた。

早瀬氏はさらに真相を明かす。「実は私もパナソニックに所属し、発足時からこのプロジェクトに参画し、譲渡と同時に三井化学にきた人間なのです」。早瀬氏はTouchFocusの生みの親でも、育ての親でもあるのだ。

三井化学 新ヘルスケア事業開発室 E-Glass事業開発グループリーダー・早瀬慎一氏(右)、同室マーケティンググループ・徳永達哉氏(左)

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