2019年1月号

労働の行方、働き方の未来

人手不足はいつまで続く? アメリカとは異なる日本の問題点

山田 久(日本総合研究所 理事、主席研究員)

1
​ ​ ​

日本の「人手不足」はいつまで続くのだろうか。また、AIやロボットなどの新技術が登場する中で、労働市場はどのように変化していくのだろうか。日本総合研究所の理事・主席研究員の山田久氏に聞いた。

山田 久(日本総合研究所 理事、主席研究員)

人手不足はいつまで続くか

――人手不足があらゆる業種・業態で大きな課題になっています。山田さんは、日本の人手不足はいつまで続くと見ていますか。

残念ながら「わからない」というのが答えです。

AIやロボットが人の仕事を本格的に代替するのは恐らく10年以上先のことで、すぐに人手不足が解消されるわけではありません。一方で、少子高齢化で日本の労働者数が減っているのは確かですが、だからといって人手不足が永続するわけでもありません。そもそも日本では1995年をピークに生産年齢人口が減少し続けています。しかし思い返してほしいのですが、2000年代始めの日本はITバブル崩壊などで就職難でしたし、2008年のリーマン・ショック後も人手が余っていました。人手不足と言われているのはつい最近、ここ数年だけです。

結局のところ、人手が不足から余剰に転じる可能性として一番大きいのは「景気後退」です。当たり前のことですが、景気が悪くなれば当然、人は余ります。AIや人口減少以上に、トランプ政権の動向や米中の貿易戦争、日本特有の問題で言えば東京オリンピック・パラリンピック後の景気後退の影響のほうが大きいでしょう。もちろん、人口が持続的に減少しているので、景気後退でも以前ほどすぐには人余りにはならないでしょうが、不況が長期化すればやがて余剰人員は増える。申し上げたいことは、人手不足は続くかもしれないし、続かないかもしれない。ただ、未来永劫人手不足が続くとは考えないほうがいい。

確実に言えるのは、雇用のミスマッチが拡大しているということです。デジタルテクノロジーの発展によって、産業構造が変化するスピードは早まり、必要とされる仕事と、必要でなくなる仕事のばらつきは拡大しています。グローバルな関係性の変化も、産業構造と雇用構造に影響を与えています。例えばアジアが成長し中間層が増えることで、紙おむつや歯ブラシ、化粧品などの需要が急速に拡大し、日本企業の輸出も好調です。コモディティ化した商品でも、メーカーは人手不足に苦しんでいるわけです。

ですから、人手不足がいつまで続くかに頭を悩ませることよりも、どんな産業が成長してどんな人材が必要なのか、あるいはどんな産業がシュリンクしていくのかを見極めるかが大切なのです。

米国とは異なる日本の労働市場

――若年層や失業者の「雇用の受け皿」として大きな役割を果たしてきた飲食・小売などのサービス業が、AI・ロボットによる代替や外国人労働者の活用で、雇用吸収力を減衰させていくという予測もあります。

確かにアメリカでは、デジタルを活用するアマゾンの急成長で、流通構造が大きく変わり、伝統的百貨店の倒産などが起こっています。いわゆる「アマゾンエフェクト」ですね。小売業だけでなく通信業や金融業、物流業にも大きな変革が起こっています。これらを総称して私は「デリバリー産業」と呼んでいますが、このデリバリー産業の変化は今後も続いていくでしょう。通信と金融をつなぐFintechがまさにそうですが、業界の垣根が薄れ、生産性もどんどん上がっていくはずです。

ただ注意すべきは、アメリカで起きているこのような変化が、日本でも必ず起こるとは言い切れないということです。アメリカでは、アマゾンを含むGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる企業が、デジタルテクノロジーの力で急速に業績を伸ばし、利益をさらなる技術革新に再投資しています。また、アメリカは景気回復が続き失業率も低水準であり、人手不足も深刻です。この2つが、労働をAI・ロボットで代替するインセンティブとして働いているわけです。

では日本はどうでしょうか。人手不足なのは確かですが、テクノロジーに再投資する体力のある巨大企業は増えていません。日本でGAFAのような企業は思い浮かばないでしょう。

テクノロジーによって新産業が生まれ、巨大企業が育ち、再投資が行われて新しいテクノロジーが育つ。新産業・新業態に人材がシフトし、既存産業では効率化が進む。これは正に今、アメリカで起こっていることですが、日本で同じことが同じスピードで起きるとは限りません。社会を引っ張るような新産業や企業が生まれてこないと、良質な雇用は生まれないし、低賃金の是正も難しいでしょう。ただ、アメリカは現状、巨大企業に富が収集しており、既存企業の変革や働き手の新たな技能獲得の面で課題があり、この点をクリアすることが高賃金の良質な雇用を多く生み出す条件になりますが。

デジタルテクノロジーを活かし、店舗やバックヤードの無人化を進めるアマゾン。しかし、アメリカで起こっている変化が日本でも起きるとは限らない

――日本の成長を牽引し得る新産業として、何が有望でしょうか。

よく言われることですが、日本は「課題解決先進国」です。高齢化に対応した福祉・医療、広い意味でのヘルスケア産業は、アジア近隣国への輸出可能性を含めチャンスがあるのではないでしょうか。介護ロボットなどのハイテク分野だけではなく、高齢者住宅や健康寿命延伸のためのスポーツ、食品、介護人材育成の仕組み、病院ではなく介護施設での『看取り』など、さまざまなサービスや商品、システムに可能性があるはずです。

アジアはこれから、欧米ほど豊かな状況ではないまま高齢化という課題に直面します。その課題を解決するための需要を取り込めれば、日本の成長産業が形成されるのではないでしょうか。昨今のインバウンド観光客の拡大もフォローの風と言えます。日本の生活環境の清潔さや日用品の品質、日本食のヘルシーさなどがアジアの人の目に触れる機会が増えていますから。

いずれにせよ、アメリカ型とは違う日本型の成長産業づくりを模索していくことが大切ですし、その可能性は十分あるのではと感じます。

介護・医療を含むヘルスケア産業は、日本にとって有望な成長産業だ(写真はイメージ)

「日本型雇用」はAI時代に適している?

――AIが人間の仕事を奪うという意見や、日本的な雇用形態を見直すべきという議論もありますね。

これもアメリカと日本では置かれた環境やAIの活用され方が異なると思います。

欧米の雇用はまず仕事ありきの「ジョブ型」、つまり職務や個人の役割が明確になっています。これは機械に仕事が代替されやすいのです。一方、日本は人がまずありきの「メンバーシップ型」であり、年功序列や終身雇用を前提として異動・転勤を繰り返し、職務も曖昧です。AIで劇的に人員を減らしたり、生産性を上げることは難しいでしょう。劇的に生産性を高めるのが難しい半面、日本の場合、AI・ロボットと人間が協業して生産性を上げていく方法が適しているし、独自性を高めるという意味でも良いでしょう。

また、産業構造が目まぐるしく変わるAI時代や第四次産業革命時代は、雇用も流動化させるべきだという意見があります。日本的なメンバーシップ型雇用を脱却し、アメリカ的なジョブ型雇用にするべきだと。この意見は、半分は正しいけれど半分は間違っていると思います。

働く人の側から見た場合、特定の仕事や技能だけに依存してするのは危険です。その仕事がAIにとって変わられるかもしれないですから。日本企業はあえて、とくに若い時に複数の仕事を経験させます。この過程で、特定の仕事のみへのこだわりが薄れ、変化への適応力や視野の広さが養われ、多様なタイプの人と仕事をすることで対人能力も身に付く。これらの能力は実は、AI時代に必要な能力です。

2045年頃にシンギュラリティが訪れると言われていますが、少なくとも今後10-20年は、AIに苦手な仕事は残るわけです。何が残るかというと「対人業務」、つまり提案型営業や介護職のように人間と接触する業務は残っていく。また、アメリカではマネージャーの人数や採用が増えているという面白いデータもあります。ここでマネージャーとはファシリテーションやコーディネーションに関する仕事も含めてですが、基本的には対人能力が大切。これは現段階ではAIは不得意な領域ですよね。

そういう意味で日本型雇用は、時代に即しているとも言えます。問題は、終身雇用であるため社員が会社にキャリア形成を任せきってしまうことや、プロフェッショナル人材になりきれないことでしょう。若い頃に多様な経験をもとに自分の適性を知り、途中からプロフェッショナルになるというキャリアコースや、会社に頼らず自分で学び直してキャリアを形成していこうという意識は必要でしょう。先に、日本的雇用の良さは特定の仕事へのこだわりが薄い、と一見矛盾したことを言いましたが、要は、いざとなればその仕事を捨てる柔軟性を持ちつつ、特定職業の技能・熟練を高めることが重要なのです。

AI時代に日本型雇用の強さは失われたと指摘されており、確かにそういう側面もありますが、その全てが否定されるわけではありません。時代に合致している部分はしっかりと残し、変えるべきは変えることが大切なのです。

「日本ではAI・ロボットと人間が協業して生産性を上げていく方法が適している」と山田氏。写真はファナック子会社ライフロボティクスの協働ロボット「CORO」

職業訓練にもイノベーションを

――産業においても働き方においても、アメリカ型を目指すのではなく日本型を確立すべきということですね。このような時代に、政府に求められる施策や取り組みは何でしょうか。

やはり教育の充実です。子どもたちにデジタルテクノロジーを使いこなすための教育が必要なのはもちろん、社会人の学びについても、企業のOJTだけでは時代の変化に追いつけないですから、大学や専門学校を活用したリカレント教育の拡充が求められています。すでに授業料支援のような仕組みは存在しますが、それだけではなく、時代に即した技能やスキルを効率的に身につけられるようにするために、職業訓練のあり方そのものを見直すことも必要ではないでしょうか。

職業訓練の改革は、世界中で必要性が指摘されていますが、実は上手くいっている事例は必ずしも多くありません。そうしたなかでも私が参考になると考えるのは、スウェーデンのユルケスホーグスコーラ(Yrkeshögskola)というユニークな高度職業訓練です。

ポイントは産学官の密接な連携です。まず、産業界から「こんな人材が不足している、これから必要になる」というニーズを聞き、それをもとに行政がプログラムやカリキュラムをまとめます。育てる職種は頻繁に更新し、ニーズがなければコースを廃止するのです。プログラムは2年間で、1年目は大学や専門学校で理論を学び、2年目は企業で働きながら実践的な技能を身につけます。AIエンジニアならばAI開発企業などでインターンのような形で働きます。そして優秀な人材がいれば、そのまま採用してしまうわけです。このように時代に即した職種を育て、さらに企業内で実践的な教育を行うことで、人材のミスマッチを防いでいるのです。ユルケスホーグスコーラは2000年代初めにスタートし、上手くワークしているようです。

スウェーデンの良さは、産業界と行政、そして労働組合の垣根が低く、人材交流も活発で相互の考え方が共有されているということでしょう。日本にこのモデルをそのまま輸入することは難しいでしょうが、職業教育・職業訓練の在り方をもっと時代のニーズに合致したプログラムに変えていく必要があります。

産学官の連携で時代に即した人材を育てる、スウェーデンの高度職業訓練「ユルケスホーグスコーラ(Yrkeshögskola)」

 

山田 久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所 理事、主席研究員

 

1
​ ​ ​

バックナンバー

メルマガで記事を受け取る

メルマガ会員限定で、
ピックアップしたオンライン記事を
毎日お届けします。

以下でメルマガの登録ができます。

購読申し込みで全記事が読める

2018年4月号「SDGs×イノベーション」完売!

会員になって購読すれば、バックナンバー全記事が読めます。PC・スマートフォン・タブレットで読める電子ブックもご用意しています。

バックナンバー検索

注目のバックナンバーはこちら

最新情報をチェック。

会員になると 最新「事業構想」が読み放題。さらに

会員の特典をもっとみる