「見たことないもの」を追求 新しい宿泊業をデザイン
「私はデザイナーではありませんが、事業そのものをデザインします」と語る、ナインアワーズ創業者の油井啓祐氏。新しい宿泊形態を生み出し、事業を急成長させているナインアワーズは、ビジネスデザインの先進企業である。
文・矢島進二 日本デザイン振興会
一般的に「宿泊先」というと数年前までは、ホテルか旅館、民宿しか選択肢がなかった。しかし、最近では、民泊やホステル、ゲストハウス、さらに「泊まれる◯屋」など多様になった。この状況を変えた要因の一つが、2009年に誕生したナインアワーズだ。
カプセルホテルは日本発祥の業態で、1979年に大阪で黒川紀章が設計したものが最初と言われている。ナインアワーズは、長年に渡るカプセルホテルのイメージを刷新しただけでなく、「新しい宿泊形態」をデザインし、その事業化も同時に図り、その結果、市場を創造したという意味において、画期的なビジネスデザインである。
経営の上流に2人のデザイナー
油井氏はベンチャーキャピタルに就職し、投資業務を担当、様々な先端ビジネスにふれていたが、1999年に父親の急死で退社を余儀なくされ、秋葉原にあったカプセルホテル業を引き継ぐことになった。当時のこの業界は、プロが不在でローテクな経営手法が多く、新たなことを始めればアドバンテージがとれると感じたそうだ。
2006年から新事業の構想に着手し、パートナーとなり得るデザイナーを探した。最初に出会ったデザイナーからの提案は「高級版カプセルホテル」で、油井氏が望むものとは離反していた。
そこで、元々カプセル単体のデザインを依頼していたプロダクトデザイナー柴田文江氏に、事業モデルそのもののディレクションをも要請する。その後、グラフィックデザイナー廣村正彰氏もチームに加わり、現在二人はボードメンバーのごとく、新規出店計画や建築家の選定など経営判断の上流から参画している。
しかし2006年当時は、自己資金は乏しく、投資や融資も受けられない状態だった。「投資家は『世の中にあるもの』で評価します。私は『誰もみたこともないもの』をつくりたいので、投資が困難なのはわかっていました。そのため、投資は諦め、秋葉原店を回復させ、自己資金を新事業にまわそうと決意しました」
終電を逃したサラリーマンやサウナ利用者がメインであったのを、設備の更新や予約制への移行など、女性客や外国人を呼ぶ策を講じ、その結果、過去最高益を達成。そして同時期に、秋葉原で再開発が始まり2009年で店を閉じ、立ち退き料を資金とし、2009年に新事業「ナインアワーズ」1号店を京都に開業する。
睡眠・シャワー・身支度の3機能
「柴田文江さんとは、3年間以上かけて本当の豊かさについて討議しました。表層的なことでなく、必要なサービスとは何かを。そこからコンセプトとネーミングが生まれました」
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