2014年12月号

災害に強い街づくり

帰宅困難者を出さないBCP

月刊事業構想 編集部

0
​ ​ ​

東日本大震災では、首都圏に約515万人の帰宅困難者が発生した。災害時の最優先事項である救命活動、企業の事業継続、早期の復興につながるため、東京都は、2013年4月、帰宅困難者対策条例を施行した。

2011年3月11日夜の新宿駅 画像提供:都政新報

東京都総務局総合防災部事業調整担当課長森永健二氏は、「帰宅困難者対策が災害対策条例の中に盛り込まれるケースはあるが、これ単独での条例は、東京都が初めて」と語る。

身を守るには外に出ないこと
群衆なだれ、火災、落下物の危険

条例制定のきっかけは、東日本大震災だった。震災当日、交通が止まった首都圏では、515万人の帰宅困難者が発生、街にあふれた人が車道まで拡がった。

「今後30年以内にマグニチュード7クラスの地震が南関東で起きる確率は、70%と言われています。もし、大地震が発生し、多数の負傷者が出た時に、帰宅困難者が街にあふれれば、救命活動にも支障をきたしかねません」

また、帰宅すること自体も危険だ。「大地震の際は、落下物もあり、建物の外に出ること自体が危険です。また、517万人と予想される帰宅困難者が都心から一斉に郊外に向け歩き出せば、満員電車と同水準、またはそれ以上の混雑が数時間も続くと予想され、群衆なだれがおきる危険性が非常に高いのです。さらに、東京駅から10kmの地域には、木造建築が多く、火災が発生する危険もあるため、むやみに帰宅するよりも勤務先や一時滞在施設に留まる方が身を守ることにつながるのです」

自助と共助の精神に基づく備えが必要

条例では、事業所に従業員が留まるために、事業者に、3日分の水や食料などの備蓄を求めている。一般に、人の生存率は3日を境に下がるため、人命救助活動は災害発生から3日間に集中する。この間は、帰宅者の安全確保が十分に行えないため、帰宅を見合わせて欲しいというわけだ。その際、従業員との連絡手段に加え、従業員と家族との連絡手段も事前に確保しておくのが望ましい。

帰宅したいのは家族の安否が不安だからだ。帰宅困難者には、92万人と推計される買い物客や観光客も含まれる。そうした人たちのために、都は、都立の施設や関連施設を一時滞在施設に指定しているが、民間にも、会議室等を一時滞在施設として開放するほか、備蓄品も従業員分プラス10%の量の確保するよう協力を求めている。

水や食料の選択に当たっては、賞味期限に留意する必要がある。「首都直下地震帰宅困難者等対策協議会最終報告」より編集部作成

感動を呼んだディズニーの対応

災害に備えたビル開発の森ビル災害時の備えの手本は、東京ディズニーリゾート(TDL)だ。TDLでは、東日本大震災の際、来園者の安全確保のために従業員が各自で的確に判断し、必要な対応を迅速に行った。

「従業員は頭を守るために商品のぬいぐるみなど周りにあるものをすぐに来園者に配ったそうです。こうした対応ができたのは、部署ごとも含め、年間百何十回も防災訓練を行い、“来園者の安全を守るためには、身近にある何を使ってもいい”ということを従業員に周知していたからです。また、温かい食事も提供したそうですが、非常食を備蓄していたからです。このように、来園者の安全を最優先するという方針を皆が共有し、日頃から物心両面で備えていたことが、迅速で的確な対応につながったのです」

もうひとつ優れた取り組みとして森永氏が挙げたのが、森ビルだ。森ビルでは、“「逃げ出す街」から「逃げ込める街」へ”をモットーに、災害時にも対応した街づくりを進めている。「虎ノ門ヒルズでは、災害時に3600人の帰宅困難者を受け入れる態勢を整えており、救急搬送を前提に怪我の度合いで誘導する階を分けるなど細かい対応策まで決めています。さらに、近隣に社宅を設け、緊急時の初動に対応する社員を確保しているとのことです」

倒産の内9割は間接被害が原因
肝要なのは災害後の事業継続

こうした高水準の備えは、中小企業には難しいが、現実は、条例が求める水準さえ達成していないようだ。アンケート調査の結果を見ると、水や食料の備蓄率は、7~8割だが、毛布などは、半分程度しか準備されていないという。災害の被害を最小限にし、復興を迅速に進めるためには、事業継続計画(BCP)を策定しておくことも肝心だ。

帝国データバンクの調査によれば、東日本大震災関連の倒産のうち、直接被災しての倒産は9%で、残りは、間接的な被害による倒産だった。その中には、「流通の混乱」や「連鎖倒産」、「得意先の被災」、「仕入先の被災」などの影響での倒産も多数含まれていた。こうした事態を招かないためには、事業継続の観点から何をすべきかをあらかじめ明確にしておくことが重要だ。ただし、「本格的なBCP計画書を目的にすべきではない」と、森永氏は言う。

「分厚いBCPの冊子を作ることが目標ではありません。それより、まず役員の緊急連絡網や従業員、その家族の安否確認方法、取引先への対応(連絡先、伝えるべき項目)等、災害時に最低限必要な対応を明確にしてA4用紙数枚程度にまとめることから始め、訓練等の状況に応じ、その見直しを繰り返し、完成に近付けていくべきです」

なお、中小企業庁や東京商工会議所のHPにあるBCP作成手順を参考に、自社のBCPを作ってもいいだろう。

2011年3月11日夜の品川駅車道まであふれた人

0
​ ​ ​

バックナンバー

社風が変わる、イノベーターが育つ

地方創生・イノベーションにつながるアイデアと思考に注目!

志高い、ビジネスパーソン・行政・NPO職員・起業家が理想の事業を構想し、それを実現していくのに役立つ情報を提供する、実践的メディア。

メルマガで記事を受け取る

メルマガ会員限定で、
ピックアップしたオンライン記事を
毎日お届けします。

メルマガの設定・解除はいつでも簡単

事業構想セミナー・説明会

バックナンバー検索

売り切れ続出注目のバックナンバーはこちら


最新情報をチェック。

会員になると 最新「事業構想」が読み放題。さらに

会員の特典をもっとみる