米国デザインスクール留学で学んだ ビジネス+デザインの極意

イリノイ工科大学のデザインスクール(ID)に留学した博報堂の岩嵜博論氏は、デザインをビジネスに活用するための体系的な手法を学んだ。著名Dスクールにおける最先端の教育手法とは?

リサーチ結果を伝える際も「共感」が大切。中には、マンガで表現するクラスメイトも

前回は、人間中心イノベーションのアプローチを体系的に学ぶために、2010年、イリノイ工科大学のデザインスクール(Institute of Design:通称ID)に留学したという話を書いた。

デザインといえば、意匠という言葉に代表されるように、「美しいものを収まりよく作る」ことを想起される方も多いと思われる。こうしたデザインの側面に加え、近年デザインの課題解決/機会発見の側面も注目されてきており、IDではこの文脈の上で「ビジネスの問題解決のためのデザイン」=ストラテジックデザインをベースにした授業が行われていた。

ここでは、プロブレムフレーミング、リサーチ、分析、統合、プロトタイプの作成、コミュニケーションという一連のアプローチが体系化されている。デザインをビジネスに活用するために非常に有効な手法なので、これから2回に分けて順を追ってそれぞれを説明したい。

事象の裏側・外側を探るリサーチ

まずプロブレムフレーミング、すなわち「問題を特定する」こと。IDでは、この授業が単体で7週間もある。その間ずっと、問題をどう定義するのか、問題をリフレーミングするタイミングなどについてじっくり学ぶ。授業は「クライアントの問題認識が間違っていた場合、その間違いを指摘し、正しく問題をフレーミングするにはどうすればよいか」など具体的かつ実践的な内容だ。

リサーチの授業では、エスノグラフィックリサーチアプローチを中心とした、定性的なアプローチの手法を学ぶ。IDでは、マーケティングリサーチと対比的に、「デザインリサーチ」と言い表していた。マーケティングリサーチは検証可能性を意識したものだが、デザインリサーチは「インスピレーションのもとを得る」ことを目的としているので、面白そうなことをやっている人、言っている人、特定の問題を抱えている人を実際に観に行こうというかなり自由なものだ。

マーケティング的なロジカル思考、MECE的な分析だと目の前にあるものしか見えない。デザインリサーチでは事象の裏側、外側に本質的な何かがあるかもしれないという仮説のもと、スコープを広げること、スコープ外のことも意識することが求められる。例えば、ゴルフのことを調べるなら、同じようにお金のかかる趣味であるスキーについても調べるというように、発想を広げることが重要だ。

デザインリサーチでもうひとつ重要なのは「共感(エンパシー)」。共感というと日本ではシンパシーという言葉がよく使われるが、シンパシーは同時に感じること、エンパシーはより深く、その人の気持ちそのものになることというニュアンスの違いがある。対象の人を客観的に見るのではなく、あたかもその対象者の気持ちになったかのように共感を得るリサーチをしようということだ。これが、人間中心で考えることの入り口になる。

デザインリサーチはコストと時間がかかるため、小サンプルになることが多い。小サンプルの場合、正当性や有効性が問われるため、IDでは信頼性を確保するために、リサーチで得た定性的な情報を「構造化」することを学ぶ。

リサーチによって新しく見えてきたことを構造化、相対化し、ダイアグラムに落とし込んで、それがどういう新しさなのかを概念化するということを繰り返すのだ。

どういうフレームワーク、ダイアグラムを作るのかも自由領域で、「調査の結果をエンパシー度の高いアウトプットにする」という課題に対して、クラスメイトの中には調査結果を漫画で表現した人もいて驚いた。

リサーチの次の段階、分析の授業では、いわゆる一般的な分析の手法を教わる。例えばIDでよく使われていたのは5Eモデルという分析手法で、アトラクション、エンター、エンゲージメント、エグジット、エクステンションという各経験のステップにおいて、どのような感情の要素が強調されていて、何が減じているのかを分析するというものだ。

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