2014年10月号

防災特集:災害を乗り越えるイノベーション

進化する災害用トイレ 1万人分を処理する「ベンクイック」の秘密

木村朝映(木村技研社長)

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都市災害で最大の課題と言われるし尿処理、すなわちトイレ。災害用トイレはさまざまなメーカーから発売されているが、その選び方には誤解も多い。「本当に使える災害用トイレ」を選ぶためのポイントとは。

「ベンクイック」はこのサイズで1万人分のし尿処理ができる

東日本大震災の発生や、南海トラフ巨大地震のリスクの高まりを背景に、災害用トイレへの関心が高まっている。避難所を擁する自治体はもちろん、帰宅困難者対策が必要なオフィスビルや、マンション管理組合でも導入が進む。

ただ、その選び方には誤解も多い。「初期導入コストの安さだけで選んだり、『とりあえず人数分備蓄しておけばいい』と考える事業者も多いようです。しかし、災害時のトイレにおける重要な役割が“防疫”であることを忘れてはいけません」。そう指摘するのは、木村技研の木村朝映社長だ。

木村朝映 木村技研社長

同社はオフィスや商業施設向けのトイレ節水システムでシェア70%を誇り、災害用トイレでも、1976年の発売以来、多くの実績とノウハウを持つ。災害用トイレ「ベンクイック」は現在、首都圏を中心に3万5000台以上を自治体や企業に導入している。阪神大震災や東日本大震災でも被災地に多くのトイレを提供。現地での課題や要望を反映してシステムを進化させてきた。

「災害用トイレ開発のきっかけは、静岡県の山本敬三郎知事(任期1974-86年。東海地震対策に尽力した)の時代に、県の依頼を受けたことです。その際に提示された“7つの条件”(図1)は、今も通用する、災害用トイレ選びの指標と言えます。とくに大量処理性や、後始末まで考えた合理的処理性を疎かにすると、結果として事業者の負担が増えることになります」

汚物回収は自治体の業務外

まず、大量処理性について注意が必要だ。「災害後、トイレが再び利用できるようになるには、水道・電気・下水道・汚水処理場の復旧と、4つの要素が必要です。これは数日程度で復旧するものではありません。実際に過去の震災では、トイレの処理能力が追いつかず、汚物が不衛生な状態で廃棄されている例が多くありました」

災害用トイレは使い捨て式と組み立て式の2タイプに大別される。ダンボール箱などにビニール袋を敷き詰めて使用する使い捨て式トイレは、サイズが小さく備蓄しやすいが、1日15人程度の利用で袋は一杯になる。

主に屋外で使用する貯留式組み立て式トイレは、300-400人分のし尿を貯められる大型タイプもあるが、それでも避難所ではすぐに一杯になってしまう。さらに400kgもある汚物袋を交換するには、クレーン車などの設備が必要。数百人分の貯留能力でも、実際の災害では不十分なのだ。

「また、非常に多くの事業者の誤解として、『汚物袋は自治体が回収してくれる』という考えがあります」と木村氏は指摘する。

昨年、木村技研は東京23区・都内13市と他府県政令市など合計47の自治体に、大規模災害時の汚物袋回収に関する調査を行った。その結果、「災害時、し尿入りビニール袋を回収できるか」という設問に、明確に「回収する」と答えた自治体はわずか2カ所、東京23区内ではゼロだった。

さらに復旧後は導入事業者自身が、汚物と汚物袋を分別して、それぞれの処理場まで運搬・廃棄する必要がある。

近年、下水道のマンホール上に設置するタイプの災害用トイレも登場している。後始末が楽に思えるが、マンホールトイレは地震による断水に対応するために、水道以外のトイレ用水(手押しポンプなど)を確保する必要がある。下水道の耐震化も必要で、1カ所当たり平均50-100万円の工事費がかかる。トータルコストや手間を考えると、課題は多い。

1台で1万人分を処理
本当に使える災害用トイレを

木村技研の災害用トイレ「ベンクイック」は、このような様々な課題に対応し、災害時に本当に使えるトイレを目指して開発された。「最大のポイントは、下水道をうまく利用し、大量処理と衛生管理を両立している点です」と木村氏は言う。

液化分のみを下水道に流すことで大量処理を実現

まず、大きさは一般的な組み立て式トイレと同じにも関わらず、1台で8,000人―10,000人分のし尿処理が可能であること。これを実現するのが、便槽内に投入されたし尿を自己分解する独自の機能を持つ、固液分離装置だ。し尿を3層に分解し、そのほとんどの容積を占める宙水層(液化分)のみを消毒して、下水道に放流処理する。これにより、他社の追随を許さない大量処理が実現した。

下水道の機能が回復し、災害用トイレが不要になった場合、貯留槽に水を注入して内容物を希釈すれば、そのまま下水管に放流できる。希釈された排水は、一般の水洗トイレと同様の成分で、環境汚染の心配はない。また、ワンタッチでの汚物崩しや目詰まり防止機構を備え、衛生を確保している。

組み立て式トイレは部品点数が多く、素人では取り扱いが難しいという声も多いが、その点でも工夫をこらしている。ベンクイックはフレームパイプをスプリングワイヤーで連結する構造を採用。図面や特別な工具がなくても、だれでも簡単に10分程度で組み立てられるようにした。

木村技研はこのトイレを、ユーザーの負担が少ないレンタルサービスでも提供。使用終了後には同社が便槽内の汚物処理、本体の解体・回収まで行う。

「防疫や後始末までを考えた当社のシステムは、事業者の負担を軽減します。トータルコストで比較すれば、他社製品と比べ優位性が高く、自治体だけでなく企業での導入が拡大しています」と木村氏は言う。

現在導入している災害用トイレは、本当に使えるのか。事業者は改めて検討する必要があるだろう。

設計図なしで組み立てられる。使用終了後には解体・汚物処理まで行う

株式会社 木村技研への

  1. 株式会社 木村技研
  2. TEL:03-3429-1131
  3. mail:toiawase@aqua-k.jp
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