地域特性を踏まえ独自な防災計画<事例:津、高知、松山、神戸>

東日本大震災を踏まえ、地区防災計画制度で、住民の自助・共助による主的な計画を支援している。地区防災計画のモデル地区の中から、高知県高知市の下地地区、三重県津市の丹生俣地区、愛媛県松山市の五明地区、兵庫県神戸市の真陽小学校区を取り上げる。

復興計画まで織り込む
高知市下知地区

高知市の中央部に位置する下知地区は、商店、工場、住宅などの混在する、人口約1万6000人の市街地で、南北2.5㎞東西1.5㎞のエリアに、古くからの木造住宅やマンションが密集する。沿岸付近のため標高は0~2mと低地で、1946年に発生した昭和南海地震では、火災と津波による浸水で甚大な被害を出した。

上:昭和南海地震直後の下知地区、下:現在の下知地区

南海トラフ地震が発生した場合は、最大震度7の揺れと津波で、家屋の倒壊と火災とともに最大深3~5mの浸水を想定している。さらに地震による2m近い地盤地下も懸念されており、津波がおさまっても、地区全域が長期にわたる浸水で孤立する恐れもある。現在進めている全域の堤防耐震化と排水機場の耐震耐水化が完成すれば、震災10日後に地区の排水が完了する。現状のままだと、1カ月以上かかるとされている。

地区内に高台はなく、避難場所も少数のビルなどに限られる。市は住民主導のもと、2050世帯をカバーする関連16団体などで構成する下知地区減災連絡会を発足させ、防災セミナー、避難計画、防災訓練などを繰り返し実施してきた。

地区防災計画ではさらなる対策を講じようと、震災後の復興も視野に入れた。

市地域防災推進課の山中晶一氏は「命を守る、命をつなぐ、生活を立ち上げる、の3つを途切れることなく連続させていくことが大切で、住民の方々と進めた検討会のテーマとなりました。津波は必ず来ると考え、それを前提に避難計画を立てて命を守ります。そして避難場所で命をつなぎ、早期の復興で生活を立ち上げます。防災は個々のリスク対策だけでなく、復興に至るまでの全体を視野に入れることが大切です。これにより前向きで希望の持てる防災計画になりました」と語る。市の中長期の防災計画では、高齢化率化による防災の担い手不足、津波の避難所となるビルの不足と偏在、要配慮者への支援、長期間の浸水による孤立化、被災後の人口流出などが課題となったが、なかでも重要視したのが被災後の姿だった。

生活を再建して再び活力ある地区に戻るためには、早期に復興しなければならないが、被災直後に考える余裕はなく、地区内の合意形成に時間もかかる。

復興が遅れれば、活力のある若い人たちの流出を招き、地域全体が衰退しかねない。そこで、あらかじめ復興計画を防災計画に織り込んでおくことで、被災後すみやかに行動できるようにした。

復興後のイメージは、防災計画の中に盛り込まれ、“子どもたちが伸び伸び遊べる、どこか懐かしいまち、下知”をコンセプトとした。

「ともすると地域の防災計画は“仏つくって魂入れず”で、策定しただけで終わりかねません。復興という、幸せを取り戻す物語を検討することで、地区の人たち自身が共有する防災計画になると思います」としている。

気軽に避難し非常食を試食
松山市五明地区

松山市の北東部に位置する五明地区は、8つの集落からなり人口584人、世帯数181世帯の地区で、周囲を山に囲まれ高齢化率も43%と高い。防災計画で重視したのは土石流災害だった。

周辺には危険とされる渓流や急斜面が多数存在し、15年の台風11号では地区内の30カ所で土砂崩れも発生した。集落に続く道も1本程度と少なく、大雨による土砂崩れで集落の孤立化が懸念された。

一方、市の指定避難所が地区内に4カ所あるものの、いずれも特定の集落に集中しているため、遠距離で移動しづらい住民も多い。加えて、過去に被災経験もないことから、防災への関心も薄かった。

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