日印政府がAI分野で協力覚書に署名 企業間でも15件のMoCが成立

経済産業省は2026年7月3日、AI分野における日印両政府間の協力を強化する覚書(MoC)に署名したと発表した。署名自体は6月26日に行われており、7月2日にインドで開催された日印首脳会談の機会に合わせて公表された形だ。

高市早苗首相は7月1日から3日の日程でインドを訪問し、7月2日にニューデリーでナレンドラ・モディ首相と会談した。両首脳は経済安全保障やエネルギー、投資、イノベーションなど幅広い分野での連携強化を確認しており、AI分野の協力覚書はこの戦略的パートナーシップ深化の一環として位置づけられる。

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今回の政府間覚書では、AIビジネスや人材交流、情報交換の面で協力を進めるため、三つの柱が明記された。一つ目は日印企業同士のマッチング機会を増やすこと、二つ目は両国企業が相手国でビジネスを展開する際の支援、三つ目はAI高度人材が相手国での就業を希望する場合に必要な情報を提供することである。政府間の枠組みを整えることで、民間主導の協力を後押しする狙いがうかがえる。

政府間のこの動きと並行して、日印企業間でも計15件の覚書等が結ばれたことが公表された。分野は資源・流通から先端研究、行政インフラまで多岐にわたる。

商社では、双日がインドのスタートアップ企業Intelligent Retail Private Limited、通称RIPPLRへの出資を通じて消費財卸・物流事業に参画している。RIPPLRは受注管理から配送管理までを一元化したプラットフォームを自社開発しており、双日は2022年1月の新規出資、2023年6月の追加出資を経て、インドの流通構造が抱える非効率性の解消を後押ししてきた。今回の公表は、こうした実績を含めた両社の関係を改めて示すものと考えられる。

農業分野では、エムスクエア・ラボがHiMedia、プネ市、Xnomousとの間でイチゴの産地形成や農業ロボットの共同開発などに取り組む枠組みを構築した。

研究機関との連携も目立つ。富士通はインド理科大学院(IISc)とAIを活用した反応拡散系モデルに関する共同研究を進めるほか、インド工科大学デリー校(IITD)とはAIの信頼性や説明可能性をテーマにした研究協力を結んだ。三菱電機もインド工科大学ハイデラバード校(IITH)との間でAI・量子・セキュリティ分野の共同研究と人材交流を進める。加えて、同校内の自律移動システム研究拠点であるTiHAN(Technology Innovation Hub on Autonomous Navigation)ともイノベーション・エコシステムの形成に向けた協力を取り決めた。

人材・教育の分野では、グローバルエッジキャリアーズ株式会社がNihon EdutechやJIS Quivan JBCと連携し、日本語のオンライン授業を提供する体制を整えた。自動車分野では、スズキがマルチ・スズキ・インディアにAI関連スマートフォンアプリの開発業務を委託する。また、デンソーのインド現地法人であるDENSO INTERNATIONAL INDIAはDPHI TECHとの間でモビリティやものづくりにAIを活用した実証実験(PoC)に取り組んでいる。

なかでも案件数が多いのが日本電気(NEC)である。インド政府のUIDAI(インド固有識別番号庁)とは国民ID制度Aadhaarへの生体認証技術の提供で合意し、NICDC(国家産業回廊開発公社)とはNECとの合弁で運営する物流データ基盤NLDSを通じたLogistics Data Bank事業への参画を進めている。このほか、通信事業者BSNLとの海底ケーブル事業、Canara BankへのAI・データ分析サービス提供、年金基金規制開発機構(PFRDA)向けのeコンプライアンス基盤とデータ分析、グルグラムやミーラト、サハランプル、シルヴァッサなど複数の自治体で進めるデータ駆動型スマートシティソリューションなど、いずれも商用ベースの案件を積み重ねている。

これらの案件を俯瞰すると、日本企業とインドの研究機関・行政機関・地場企業との連携は、AIモデルの信頼性研究から国民ID基盤への生体認証技術、自治体のスマートシティ化まで、社会インフラに近い領域にまで及んでいることがわかる。政府間のMoCが掲げるマッチング支援や人材交流の枠組みは、これら民間レベルの取り組みをさらに後押しする土台になるとみられ、今後も両国間での案件の積み上げが続く可能性が高い。