2020年12月号
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SDGsの実践 あるべき指標と評価

ESGと企業価値:ケーススタディIII 生物多様性の保全とグリーンインフラ

馬奈木 俊介(九州大学都市研究センター センター長・主幹教授)、岸上 祐子(九州大学大学院 工学研究院 研究員)

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自然の恩恵は多くの人が感じているものの、見てすぐには分かりにくいものや時間を経て影響するものも多い。また因果関係が複雑で価値を定量的に測りにくいために、その評価は難しい。生物多様性を保全する重要性の認識は広がってきているものの、経済性が優先される社会では、評価が難しいこともあり、どうしても対応の優先順位が低くなりがちだ。そこで、生物多様性の機能を価値づけようという試みが進んでいる。そのなかで、最近では自然の機能を積極的に生かすことでインフラなどのコストをカットし、かつ生物多様性の保全にもつながる取り組みが注目を集めている。

認知される「生物多様性」の危機

2020年は国際的な議論が進められる生物多様性スーパーイヤーとも呼ばれ、生物多様性にとって、大きな区切りの年となるはずだった。というのも10月に中国で生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催され、2030年までの国際的な目標が決められることになっていたからだ。しかしこれは新型コロナウイルス感染拡大防止のために延期を余儀なくされた。この状況下、この10月に国連生物多様性サミットがオンラインで開催され、それに先立ち世界64の国と地域の首脳が2030年までに生物多様性喪失の流れを逆転させるために団結して行動することが合意された。「COP15で採択される2020年以降の野心的で変革的な生物多様性の枠組みを完全に実施することにコミットする」など10の行動指針が示されている。

生物多様性喪失はビジネスにも多大な影響を及ぼすばかりか、人類の生命基盤が脅かされることになるという認識が世界中に浸透している。

「生物多様性」への注目とその価値について、これまでのことを少し振り返ってみると、1992年、米国の生物学者エドワード・O.ウイルソンが著書「生命の多様性」の中で「生物学的多様性biological diversity 新しい言い方では『生物多様性 biodiversity』こそ、この世界を私たちが知っているままの状態で維持するための鍵である」と言及している。

日本で「生物多様性」という言葉を目にすることが、この20年で増えてきた。2004年度の環境省調査では「生物多様性」の意味を知っている人は約10%と報告され[1]、当時はまだ一般になじみのない言葉であり、その重要性の認識が浸透するまでには時間がかかると予想された。そして2005年、国連の呼びかけで実施された地球規模の環境アセスメントであるミレニアム生態系評価の報告がなされ、生態系のサービスや財は人類にとって価値のあるものであり、地球全体で劣化していることが強調された。

生物多様性に対する関心が日本で高まったのは、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約締約第10回締約国国会議(COP10)がきっかけだ。COP10では、これ以上生物多様性が失われないようにするための具体的な行動目標である「愛知目標」が採択され、この目標の達成には「生物多様性や生態系サービスの現状や変化を科学的に評価し、それを的確に政策に反映させていくことが不可欠」とし、わかりにくい生物多様性の評価の必要にも言及した。COP10までに、国連環境計画(UNEP)が中心となった、ミレニアム生態系評価で「生態系サービス」として整理された「物質の供給」「調節」「文化」そしてこれらを支える基盤の「サポート」を参考に生態系の機能を分類し、経済的に評価した「生態系と生物多様性の経済学」(The Economics of Ecosystem and Biodiversity TEEB)も公表され、生物多様性や生態系の価値が大きなことが経済的にも大きなことが明示され話題となった。

2012年4月には、生物多様性、生態系サービスの現状や変化を科学的に評価するため、世界中の研究成果を基に政策提言を行う政府間組織として「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services  IPBES)」も設立された。IPBESは2019年5月に「グローバル評価報告書」を発表し、その中で世界の生物多様性がますます損われており、このままでは私たちの生活や経済が立ち行かない状況になってることを明らかにしている。

2020年には、世界経済フォーラムの「グローバル・リスク・レポート2020」でも生物多様性の危機が言及されている。今後10年間に発生する可能性が高いリスクの上位5位は1位から順番に「異常気象」「気候変動の緩和・適応の失敗」「自然災害」「生物多様性の喪失」「人為的な環境災害」とした。今後10年間に発生した場合の影響が大きいリスクも上位5位のうち4つが環境リスクで、「生物多様性の損失」は第3位となっている。生物多様性及び生態系の危機に対し早急な手立てが必要であるということは、経済的にも認知されるようになってきた。

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