渋沢栄一に学ぶ論語と算盤とSDGs 資金の循環が推進のエンジン

SDGs の達成に向け、いかに資金を調達し、循環させるかは重要なテーマだ。社会課題の解決のため、人や組織を動かすエンジンでもある金融システムには多くが求められる。より豊かで持続性のある社会を目指す投資の視点や、エコシステムのあり方とは。

渋澤 健(コモンズ投信 代表取締役会長 兼 ESG最高責任者、シブサワ・アンド・カンパニー 代表取締役)

コモンズ投信代表取締役会長兼ESG最高責任者の渋澤健氏は現在、長期投資をモットーに資産運用を行うコモンズ投信を運営している。会社設立前は米系ヘッジファンドに勤めていたこともあり、「当時の私の目線は、今年のボーナスはいくらだろう、にあった」と笑う。しかしその目線は、「親になったこと」で変わった。

「2000年に長男が生まれました。小さい赤ん坊を見ていたら、いずれ親元を離れ、チャレンジするであろう子どものために資金を積み立てたいと思いました。このときはじめて長期の目線を意識しました」。

翌年には、会社設立とアメリカ現地で9.11を経験。2000年代のはじめというタイミングで経験した3つの出来事から、「ゴーイング・コンサーン」「サステナビリティ」「インクルージョン」は自分自身のためでもあると感じるようになったという。そして、高祖父にあたる渋沢栄一の著書『論語と算盤』の思想は、3つのキーワードをつなぐSDGsに通じると話す。

「渋沢栄一は、『一人だけが大富豪になっても、そのために社会の多数が貧困に陥るようでは、その幸福は継続されない』と語っています。将来・未来という自分の人生の長さ以上の『時間軸』を人間が意識したからこそ、経済活動(=算盤)には倫理(=論語)」が重要であると説いています」。

コモンズ投信では個人投資家向けにNISA・つみたてNISAを取り扱っている。「個人投資をテーマとしたセミナーなどに女性や若者が増えてきているものの、自分自身へのサステナビリティに対する関心は二極化していると感じている」と渋澤氏。SDGsの「誰一人取り残さない」という根本理念を達成するには、関心を示さない人たちも取り残さないようにする政策も重要だと指摘する。

カレーうどんの発想が
新たな価値を創る

SDGs達成のためには年間2.5兆ドルの資金が必要だと言われている。これは、税金や政府の予算だけでは到底達成できない数字だ。

「いかに民間が関与し出資するかですが、事業、経済の成長と両立しなければなりません。価値を創出し、生まれた利益を社会に還元していくエコシステムが必要です」と渋澤氏。そして、「価値創出に不可欠なのは、ムーンショットとバックキャスティング」だと続ける。

「『論語と算盤』は、この点でもヒントになります。『~と~(and)』という表現には、一見矛盾に見えたとしても、2つのものを結びつけるクリエイティブの力があります。もうひとつ、『~か~(or)』の力がありますが、これは、いずれかに絞る効率化の力。存在するものを比較、分析はできるけれど、クリエイティブはできません。SDGsの時代に必要なのは、〈『と』の力〉。やりたい、とできる、ことのマッチングがムーンショットを実現させます」。

日本人が得意とするのは積み上げの思考であり、今のままでは目標に到達できないと言う人は多い。しかし渋澤氏は「日本人はカレーうどんをつくったじゃないですか」と明るくいう。

「私は、日本人は異分子を取り入れ複合させるのがすごく上手だと思っています。インドのスパイスと日本のダシが合わさったカレーうどんがいい例です。垣根をつくらずに、持っている感性・発想を生かせばいいのです」。

そしてもうひとつ、ムーンショットで掲げた目標にたどり着くための価値創造を支える仕組みの強化が必要だと指摘する。

「今、注目されているのが〈社会的インパクト投資〉です。この定義はさまざまですが、与えるインパクトをいかに可視化し計測できるものにするかが今後の普及のカギです」。

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