企業人が大学で教える 「実務家教員」のニーズが拡大

複雑化した社会課題に対応するためには、実務家教員からの学びが重要だ。しかし、企業人がそのまま教壇に立てばよいという訳ではない。実務家教員は、実務経験・教育指導力・研究能力という3つを習得する必要がある。

実務家教員は、多様な知やスキルを実践知=専門知にする担い手である(写真はイメージ)

成熟社会とリカレント教育

日本の教育は大きなターニングポイントにある。2020年の入試改革や教育指導要領の施行など〈こども〉の学びや教育方法が注目されているが、実はそれだけではない。〈大人〉の学びにも大きな変化が訪れようとしている。リカレント教育という言葉が〈大人〉の学びのあり方を集約しているのではないだろうか。

我々が生きる日本社会は、高度に複雑化した社会と言える。ピンとこなければ「課題先進国」や「成熟した社会」というフレーズに言い換えてもよい。そこで問題になっているのは、課題もまた複雑化してきている――SDGs、第4次産業革命、人生100年時代、グローバリゼーション、地方創生云々――ということである。

その直面する課題を解決するために、社会は多様な知やスキルを要求している。新しい課題に直面するたびに、それらを解決する知やスキルが不可欠となるのだから、我々もまた常に学びを続けなければならない。学ぶだけではない、その学びから問題を解決する知を生み出していく、そこにリカレント教育の意義がある。

成熟社会の新しい知を求めて

では、複雑化した現代の社会課題に対応するために、多様な知やスキルをどのように獲得すればよいのか。

伝統的に、新しい知を生み出す役割を果たしてきたのは大学である。ところが、従来の大学の学部などに代表されるような学問体系に依拠した知識生産だけでは、社会からの多様な知やスキルの要求に対応できなくなってきている。既存の学問体系を越えた知の生産をいかにして行えばよいのか。昨今、大学改革が叫ばれているのは、社会の要求と学術が乖離していることに端を発しているのではないだろうか。

社会から要求される多様な知やスキルの需要に応えるためには、社会のなかに分散し埋め込まれている知やスキルを掘り起こして、新しい実践知=専門知として誰もが利用できるかたちにしなければならない。では、その社会に散在する知やスキルを実践知=専門知にしてゆく担い手は誰か。

実務家教員の役割
――企業人が大学で教える

実社会での経験をもつ企業人(あるいはひろく実務家といってもよい)が、多様な知やスキルを実践知=専門知にする担い手であると考えられる。実際、企業などでの経験をもとに大学の教壇に立つ方々は実務家教員と呼ばれている。これから実務家教員の役割は、ますます大きくなってゆくだろう。というのも、先ほど述べたように社会が要求する知やスキルを実践知にしてゆく役目が実務家教員には求められているからである。

もちろん、実務家が経験したことがそのまま即、実践知=専門知になるわけではない。これまでの専門分野の知の結晶である理論と、実務家が経験てきた経験知を融合させながら、新しい実践知=専門知を形成していくことがまさに求められている。こうした実践と理論の融合こそが、現在の複雑化した社会課題を解決するための「新しい知」となってゆく。その役割が実務家教員には求められている。

実務家教員の固有性を高めるため
教授法・カリキュラムを学ぶ

前号の拙稿(2018年9月号「リカレント教育時代の実務家教員」)でも触れたように、実務家教員に必要な要素は、実務経験・教育指導力・研究能力の3点であると考えている。実務経験や実務能力は、それぞれの実務家がもっている固有の能力であるが、実務家教員としての教育指導力と研究能力についてもそれぞれ触れておきたい。

まず教育指導力は、実務家教員として大学で教育指導をするのであれば、避けては通れない道である。例えば、実務家教員として科目を受け持つことになったときにシラバスを作成することになる。その際、シラバスを作成した経験がない者が何をするのかといえば、前任者や他のシラバスを参考に書こうとする。ここでよく立ち止まって考えてほしい。前任者や他のシラバスは誰が書いているのだろうか。ほとんどの場合、研究者教員が書いたものではないだろうか。そう考えると、せっかく持っている実務経験を無視したシラバスを書いてしまうことになる。といって、実務経験だけを頼りにシラバスを書いても今度は、体系的なシラバスを書くことはできないだろう。

シラバス作成など、実務家教員は"実務家教員なりの"スキルが必要となる(写真はイメージ)

つまり、実務家教員は実務家教員なりのスキルが必要となってくる。もちろん、シラバスだけではない。実際の講義方法もそうである。大学で講義を受けた経験があれば、それをもとに講義をしようとするかもしれない。しかし、大学での講義方法も日進月歩で進化している。こうした様々なスキルが実務家教員には必要であり、それは教育の質保証にかかわってくる。

そして研究能力である。研究能力は、これまで本稿が述べてきたように実務経験を実践知=専門知へ変えてゆく能力なのではないか。研究が「新しい知」を生産することが目的なのであれば、実践知=専門知をつくりだすことも研究にほかならない。それが実務家教員固有の研究能力である。「新しい知」として生産するためには、これまでの理論との融合が不可欠なのである。そうでなければ、研究者教員と実務家教員を区別する理由はなくなるのだから。

実務家教員への課題

以上のように、実務家教員の能力開発が今以上に必要となってくるだろう。そのときの課題は、やはり実務経験をもつ実務家教員の固有性、実務経験を最大限活かすための方策をより考えていかなければならないだろう。そしてなによりも、実務経験という暗黙知を形式知とし体系立てて「新しい知」にしてゆく方法論の確立がこれまで以上に急務である。

これから実務家教員の役割、実務家教員からの学びが重要になってくるが、実務家教員にも学びが必要なのである。

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