過疎地を元気にする仕掛け人 住民参加、「町内熱量」を最大に

「よそ者」として過疎地に赴任し、自らは黒子として、住民の熱量を引き出すことに力を注ぐ。吉田秀政氏は広島県安芸太田町に降り立ち、同町が「元気のある過疎地」に変わるきっかけをつくり出した。そして、吉田氏は現在、鹿児島県錦江町で新たな挑戦を続けている。

広島県安芸太田町で開催した「雪かき体験ツアー」。
「雪かき」という地域の困りごとをもとに、旅行商品を開発した

地元の伝統芸能である「神楽」。
欧米の富裕層をターゲットに体験ツアーを企画し、人気を集めている

「地方創生」という言葉がブームになる以前から、過疎高齢化に悩む地域に降り立ち、黒子として活動しているキーマンがいる。2016年5月、鹿児島県錦江町の地方創生担当統括監に就任した吉田秀政氏である。

吉田氏は1972年、秋田県の生まれ。高崎経済大学では環境経済学を修めた。このときに学んだ、常に俯瞰的な視点に立って未来を予測し、今を見据えるという思考法は、後の地域活性に活かされている。

過疎地振興が自身の「使命」

卒業後、大手旅行会社に就職した吉田氏は東北や関東で旅行業務に携わる中で、観光業の未来を考えれば考えるほど、過疎地域の活性化の必要性を感じるようになった。

ある意味、会社では常に異端児だったという。人口減少に苦しむ過疎地に対して、集客だけで無く、都市部住民と過疎地を積極的につなげて課題解消や移住までを一貫してマネジメントするという「観光の再定義」は、会社ではあまり理解されなかった。しかし現在では、こうした考え方が地方創生の中核となっている。

そして、自ら過疎地で活動したいと考えるようになっていた吉田氏の決心を後押しした出来事が、2011年3月11日の東日本大震災だ。仙台で被災した吉田氏は、過疎地振興を「使命」としてより強く意識する。

吉田氏は、広島県安芸太田町の外部人材募集に応募。安芸太田町の人口は、約7500人。人口減少が中国地方ワーストであり、高齢化率は当時43%だった。吉田氏は、全国116人の中から安芸太田町の観光協会事務局長(町第1号の「よそ者人材」)に選ばれ、2011年5月、同町に移住。それから5年間、観光にとどまらず、住民や行政を巻き込みながら、さまざまな地域活性策に力を注いだ。

「あるべき未来」から今を考える

観光協会の責任者という立場だったが、吉田氏は、観光は地域振興の一部と位置づけた。農家民泊や田舎型交流ビジネスを立ち上げたり、田舎の「困りごと」を都市部住民がレジャー感覚で過疎地住民と共に解消する「雪かき体験ツアー」「三段峡流木清掃体験ツアー」など、幾多の商品を開発した。

それらの目的は、住民に「これまで、できれば隠しておきたかった恥ずべきこと」とされていた困りごとが、都市部住民にとっては新鮮な「レジャー」に映るという現実を目の当たりにしてもらい、実は過疎地域は「宝の山」であったと理解してもらうことで、住民の熱量を上げることだった。「まだ何も諦める必要は無いのだ」と。

主役は常に住民であり、観光協会は黒子にすぎない。交流人口や移住者を増やすには、一見、遠回りでも住民自身が動き出す必要がある。

着任した吉田氏が、まず力を入れたのは、住民への説明会や座談会を開催することだった。町内会や学校、企業の行事など、ありとあらゆる機会を利用し、住民との対話は年間100回近くに及んだ。

そうした取り組みで吉田氏が目指したのは、住民の参加を促して地域の未来像を共有することだ。

「直近の未来ではなく、もう少し先、10年、20年先の未来を想像してもらい、気づきを促しました。『バックキャスト』という方法です」

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