世界が注目する祭典「SXSW」 ジャンルレスの混沌、人を魅了

世界的に注目されている、ビジネスとクリエイティブの祭典「SXSW」。期間中、会場となる米国テキサス州オースティンには、世界中から人が訪れる。SXSWは多彩なカルチャーが交差する場であり、その混沌が独自の魅力となっている。

各界のキーパーソンを招き、基調講演やセミナーを開催。多くの聴衆を集める

毎年3月、米国テキサス州オースティンで開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。大型のベンチャーサミットやカンファレンス、先進テクノロジーの展示会などのビジネスイベントだけでなく、音楽フェスや映画祭など、クリエイティブ系の催しも行われる。

期間中に開催されるセミナーは1300本以上、参加するアーティスト数は200人を超え、250本近い映画が上映される。各界のイノベーターやキーパーソンが登壇者に招かれ、2016年の基調講演はオバマ大統領が行った。

また、2007年にTwitter、2011年にAirbnb、2012年にPinterestがアワードを受賞するなど、SXSWを契機に躍進を遂げたスタートアップも数多い。

SXSWは、世界的に注目されているビジネスとクリエイティブの祭典なのだ。

期間中、車の往来は激しくなり、ダウンタウンでは渋滞も

SXSWは人がつながる場

SXSWは特定の会場で行われるわけでなく、オースティン市内に点在するホテルや店舗、イベントスペースで開催される。街中にSXSWのフラッグやポスターが飾られ、普段は飲食店の場所がライブ会場として使われる。10日間で8万人以上が訪れ、195億円の経済効果がもたらされるという。

SXSWのインタラクティブ部門(先進テクノロジーやビジネスを扱う部門)のディレクター、ヒュー・フォレスト氏は、SXSWが大きくなった要因として、「コミュニティに重きを置いてきたこと」を挙げる。

「人がコネクトする、関係づくりに力を入れてきました。コミュニティからすばらしいアイデアがもたらされ、インスピレーションを得ることができる。それがSXSWを特別なものにしています」

SXSWは、さまざまな人がつながる場だ。企業が優秀な開発者を探したり、投資家が将来性のあるベンチャーを探したりするのはもちろん、ジャンルを超えて交流が行われる。

開催されるセミナーのテーマは、テクノロジーの動向からメディア、スポーツ、ファッションなどの業界別トレンド、組織論やコンセプチュアルなデザイン論まで多種多様であり、一歩、足を踏み入れれば、最前線で活躍する人たちの話を聞くことができる。展示会を歩いていても、不思議な物体に人だかりができていて、自分の「想像の外」にあるプロダクトに出会うことができる。

会場には、果物を使った楽器や、段ボールでできたロボットなども展示されていた。一見、玩具のようにも思えるが、段ボールのロボットはIBMが開発しており、設計図がオープンソースになっていて筐体を3Dプリンタでつくることができる。簡単なプログラミングを施し、カメラ、マイクなどのハードウェアを組み合わせれば、誰もがロボットの開発者になれる。

2017年のSXSWでは、AR(拡張現実)・VR(仮想現実)の展示や発表も数多く見られた。アクセラレーター・アワードのAR・VR部門を受賞したベンチャー、LAMPIXは机などの表面に投影した映像を、実際に操作できるAR技術のデモを披露。PCの外側にコンピュータの世界が広がり、何もない机の上の空間にキーボードを映して、それを入力装置にすることができるようになる。

スタートアップのピッチイベントや、アワードも開催。SXSWを機に、注目を集めたスタートアップも多い

夜は多くの店がライブ会場に

日中、多くのビジネスパーソンで賑わうSXSWは、日が暮れるにつれ、別の側面を見せ始める。通りには若者があふれ、たくさんの店でライブ演奏が始まり、まちは音楽フェスの喧騒に包まれる。こうした間口の広さ、捉えどころの無さが、SXSWの集客力を支えているのだ。

日本でも、全国各地で音楽フェスが開催されているが、それはビジネスシーンから切り離されたところで行われている。

Googleの創業者、ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンは、ネバダ州の砂漠で開催されるDIYの祭典「バーニングマン」がお気に入りだ。シリコンバレーから生まれたベンチャーが、その根底にカウンターカルチャーの精神を持つことがあるように、インディペンデントな意識は、ビジネスや音楽といったジャンルに関係なく、新しいものを生み出す原動力になる。

異なるカルチャーの混交が、まちの魅力をつくり出す。発見の予感、未来への期待に、人は惹きつけられる。SXSWは他に類のない混沌をつくり出すことで、周辺に丘陵地が広げる南部の都市・オースティンに世界から人を呼び込んでいる。

夜は、市内各地がライブ会場に

通りには、多くの若者があふれる

IBMは、段ボール型のロボットを展示

果物を使った楽器。バナナが鍵盤になっている