昆虫食が解決する社会課題 「持続可能なたんぱく質」の潜在力
国連が推奨したことで注目を集める昆虫食は国内でも取扱い企業が出てきている。SDGs新事業プロジェクト研究会でゲスト登壇した、昆虫食の開発・販売を手がけるentomo(エントモ)の代表取締役 松井崇氏が、事業化への道筋と普及に向けた課題、可能性について語った。
国連推奨の"高栄養食"
松井氏が昆虫食と出会ったきっかけは、数年前に体調を崩したこと。栄養学を学びさまざまな食事療法を実践するなか、「良質なたんぱく質食として昆虫にたどりついた」という。含まれる栄養素は豊富で、人の体に欠かせないオメガ3脂肪酸、ミネラル等も含有する。
現在、昆虫食は限られた地域での郷土食として扱われることが多いが、旧約聖書に記述があるなどその歴史は古い。国内でも〈イナゴの佃煮〉などで知られるが、大正時代には内陸部を中心に55種類の昆虫食の記録が残っている。こうした食文化は、害虫駆除を兼ね育まれてきた。
しかし先進国を中心に、昆虫食は衰退の一途をたどっている。農耕や畜産の効率化、農薬など害虫駆除技術の向上や、昆虫から得られるカロリーよりも昆虫の捕獲に要するカロリーの方が上回るなど、昆虫食に合理性が見出せなくなってきたためだ。
都市化の影響も大きい。都市では昆虫に触れる機会が少なく、衛生的に問題を抱える昆虫が多いため、そこに嫌悪感が生まれる。こうして日本を始めとする先進国では昆虫食は嗜好品となり、最近まで昆虫食が盛んな東南アジア諸国でも、経済発展に伴い昆虫食への嫌悪感が出てきているという。
一方、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が、"持続可能な未来のたんぱく源"と推奨したことから、昆虫食は注目を集める。人口増でたんぱく質の需要が増え、2030年頃にその需要が穀物飼料の生産量を上回り、供給量が追い付かなくなると予想されている。この"たんぱく質危機"に備え、畜産と比べ飼料だけでなく、土地や水も少量で済む昆虫食が未来のたんぱく源として提唱されたのだ。
松井氏はこの議論について、「世界的に食料生産量と一人あたりの摂取カロリー水準は上昇し続けている。食料が増えたため人口が増加したと見ることもできる」と指摘しつつ、「危機に関係なく、たんぱく質の選択肢が増えることは新たな可能性」と語る。
「例えば、石油資源枯渇への危機感から、省エネ分野で技術革新が起こり、その技術が転用され私たちの生活はより豊かになりました。昆虫食や培養肉などの次世代たんぱく質を増やすことが、次の時代の豊かさをつくります」
こうした考えをもとに創設されたentomoは、「世界100億人の食文化をより豊かにすること。先進国では健康増進、途上国では栄養改善」をビジョンとして掲げる。
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