英EU離脱にみる、地域産業を支える新産業創出に重要なものとは

国民投票から3年、本来なら既にEUから離脱しているはずだが、もめにもめている英国。地域経済を支える新産業を生み出すために、最も重要なものは何なのか。新産業の創出と産業活性化の視点から、ブレクジットを分析した。

英国は2016年6月に国民投票を実施し、欧州連合(EU)からの離脱を決めました。それから3年、いよいよ英国のEU離脱(ブレグジット)が現実化しようとしています。ブレクジット(Brexit)とは、英国Britain と離脱Exitを組み合わせた造語です。ブレクジットを、「地域経済とイノベーションの視点」で分析すると、英国のEU 離脱の本当の意味が見えてきます。

2011年、私は、勤務していた大学(早稲田大学大学院ビジネススクール)より1年間の在外研究員の資格をとり、英国サセックス大学の科学政策とイノベーションに関する研究所の客員研究員をしていました。この大学は、ロンドンの南にあるブライトンにあります。

長期に英国に滞在したのは、この時が初めてです。英国の英語の発音が、その人が属している階層により大きく異なっている点に強い印象を受けました。米国、カナダには通算5年ほど住んでいましたが、英国ほど発音についての階級差はありませんでした。

サセックス大学では、英語に関してはほとんど苦労しませんでしたが、大学から一歩外に出ると、自分が喋る英語は通じても、相手が話している英語が分からないということがしばしばありました。話す言葉に、階層差が根強くあることを意識させられました。

図1 英国の代表的な都市

出典:執筆者作成

 

EU離脱派の論理

情報通信技術(ICT)の発展により、グローバリゼーションが加速化し、特に「情報の移動」が容易になりました。米アップル社の製品には、「Designed by Apple in California, Assembled by China」と書かれています。 アップル社と中国フォックスコンとの水平分業で、設計は米国のシリコンバレーで行い、製造は中国ということが可能になりました。フォックスコンは、電子機器の生産を請け負う電子機器受託生産(EMS、Electronics Manufacturing Service)の会社で台湾に本社があり、製造は中国本土でしています。

英国でも、このような新しい動きに乗れる地域と乗れない地域とが出てきました。1990年代以降急速に発展し、英国の主要産業に上り詰めた金融業や、それに続いた不動産業のように、人・物・サービス・資本の自由な移動を利用して、ビジネスの機会を増やし、質の高い雇用を生み出した分野はあります。

しかし、20世紀に多くの人を雇用していた英国の製造業は、EUの単一市場化によりマイナスの影響を受けました。離脱を支持する人が多い地域は、欧州の他の地域からの輸入品や移民により、自らの産業が悪影響を受けたと考えています。ヨーロッパからの安い輸入品や、移民が英国に移住することで、職場や給与が失われた、というわけです。

英国のEU離脱派は、単一市場から独立し、再び「壁」を高くすれば、自分達の生活が守れると考えたのです。しかし、それで本当に守ることは可能なのでしょうか?

全文をご覧いただくには有料プランへのご登録が必要です。

  • 記事本文残り51%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。