アメリカではIPOよりM&Aが主流 「出口戦略」の日米比較

アメリカと日本では、スタートアップの出口戦略にどのような違いがあるのか?日本で複数のスタートアップのIPOに関わり、現在シリコンバレーに拠点を置くVC、500 Startupsの日本ファンドでマネージングパートナーを務める澤山陽平氏に聞いた。

澤山 陽平(500 Startups Japan マネージングパートナー)

日本の多くのスタートアップは、ひとつの大きな目標として上場(IPO)を捉えているだろう。しかし、アメリカは必ずしもそうではないと語るのは澤山陽平氏。シリコンバレーに拠点を置き、60カ国1800社以上に投資するベンチャーキャピタル500 Startupsの日本ファンド500 Startups Japanのマネージングパートナーだ。

澤山氏は、JPモルガン証券の投資銀行部門でテクノロジー・メディア・通信分野の資金調達やM&Aのアドバイザリー業務に携わった後、野村證券にてITセクターの未上場企業の調査、評価、支援業務を担当し、10社以上のスタートアップのIPOに関わった。

そして今、500 Startupsの日本チームの一員として、海外のVCと日本のスタートアップをつなぐ役割も担っている。いわば、未公開企業と上場企業、どちらのファイナンスにも精通している稀有な存在である。

日米のベンチャー投資金額に
大きな差がある理由

日本とアメリカのスタートアップの出口戦略は、どう違うのだろうか。澤山氏は前提として、日米の投資金額の差を指摘する。

「VCからスタートアップへの投資金額は、2016年の時点で日本とアメリカで36倍の開きがあります。VCのファンド投資額も、日本は年間2000億円程度ですが、アメリカでは1社で同程度のファンドも珍しくありません。なぜここまでの差があるのかというと、ノウハウとネットワークの違い、情報のブラックボックス化、そしてエグジットの不足という3つの理由が挙げられます」

澤山氏の分析をもとに、3つの理由それぞれを見てみよう。

ひとつめの日米のノウハウとネットワークの違いは、明らかだろう。アメリカでは50年以上前からシリコンバレーを中心に多くの起業家が生まれ、成功者がエンジェル投資家としてスタートアップに投資するというエコシステムが生まれた。そのサイクルは、既に6~7世代にわたるという。

一方の日本では、第一世代にあたるのがソフトバンクの孫正義氏や楽天の三木谷浩史氏で、その次にサイバーエージェントの藤田晋氏などが位置するが、まだ3~4世代に過ぎない。日本でも成功した経営者が次世代の起業家に投資する動きは出てきているが、日米のすそ野の違いがそのまま、支援者の数を表している。

情報のブラックボックス化は、日本語以外の言語での情報発信の少なさが原因だ。

「海外のVCでは、日本の情報はまるで知られていません。アジアのスタートアップに投資を考えるとき、欧米のVCはシンガポールに拠点を置きます。日本が素通りされる『ジャパンパッシング』状態ですね。弊社は38億円ほど日本向けファンドを調達していますが、機関投資家には『なぜ日本で?』と聞かれました。世界でも評価されるような技術を持っている日本のスタートアップも世界への情報発信は不足していて、全く注目されていません。買い手が少なかったら買い叩かれるという市場の原理で、資金の調達力にも影響しています」

最後のひとつは、大きな課題だ。澤山氏によると、日本のスタートアップのエグジットはIPOがほとんどで、アメリカはM&Aが大半を占める。スタートアップにとってIPOはハードルが高く、簡単ではない。澤山氏は野村證券時代の4年間で10社以上のIPOを担当したが、その2、3倍のIPOできなかったスタートアップを見てきたという。

アメリカの場合、大企業がスタートアップを買収し、利益を得たスタートアップの創業者がVCを始めたり、再び起業を目指すというのは当たり前の光景になっているが、日本ではようやく大企業が重い腰を上げた程度だ。

「僕はJPモルガンで大企業のM&Aを担当していたので日本の企業の考え方もよく知っていますが、日本の大企業がスタートアップをどんどん買うようになるには、まだまだ時間がかかると思います。日本で資金調達に苦労していた東大発ロボットベンチャーのシャフトをグーグルが買収したというのが良い例です」

図1 国内スタートアップの資金調達額と調達手段(n=131)

出典:登記情報より500 Startups Japan作成

 

ロボットベンチャー・シャフトはグーグルを経てソフトバンク傘下に。大企業によるベンチャーのM&Aの代表例と言える

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