自治体広報誌で日本一 埼玉県三芳町の広報戦略とは
2015年、全国広報コンクール最高賞である内閣総理大臣賞を受賞した、埼玉県三芳町の広報誌「広報みよし」。昨夏からはモリサワの協力で、広報誌の多言語電子配信に取り組み、世界への情報発信を開始。小さな町に着実に変化が現れてきている。
「東京から一番近い町」がどこか、ご存じだろうか?
答えは埼玉県南部にある三芳町なのだが、どんなところなのか、近隣の住民以外、具体的なイメージがわく人は少ないだろう。
「日本の里100選」に選ばれた武蔵野の雑木林と農村風景が自慢の同町は、認知度を高めるために町のPRに力を入れてきた。今、その情報発信の大きな核となっているのが、町の広報誌「広報みよし」だ。2011年末、雑誌と見紛うようなビジュアルと、読み応えある内容にリニューアル。この取り組みが評価され、2015年5月、全国広報コンクール最高賞である内閣総理大臣賞を受賞した。
読んでもらうための誌面作り
「広報みよし」刷新の仕掛け人は、三芳町秘書広報室の佐久間智之氏。「リニューアル前の広報誌が、読まれないまま捨てられていたのを見て、なんとかしなければと思った」という佐久間氏は、2011年4月、庁内の公募に立候補し、町長に「日本一の広報をつくります」と宣言して広報担当に着任した。
それからデザインや編集を学び、印刷以外の行程をすべて一人で担当。もともと一千万円を超える経費がかかっていたが、半分程まで圧縮したうえで、「住民が主役」の誌面作りを進め、5年目で日本一に輝いた。
「行政の広報誌を、興味を持って見る人は少ないと思います。僕自身もそうでした。だからこそ、特に若い世代にどうやったら手に取ってもらえるかを考えています。例えば、町に関心を持ってもらうきっかけとして、2年前からAR(拡張現実)も導入しています。専用アプリをインストールしたスマホを誌面の中のARに対応した写真にかざすと、動画が起動する仕組みです。動画にはURLが張り付けてあって、動画をタップするとイベントの申し込みフォームに飛ぶようなクロスメディア化も実現しました」
デジタル化で冊子の取り寄せ依頼も
2015年からは「広報みよし」のさらなる認知度向上に向けて、広報誌の電子配信にも取り組んでいる。ここで大きな役割を果たしたのが、モリサワが開発した多言語対応の情報発信ツール「MCCatalog+」。これは、紙の冊子データから日本語のテキスト情報を抽出して、自動翻訳エンジンと連携し日本語、英語、中国語簡体字、中国語繁体字、韓国語、タイ語の6言語のデジタルブックを作ることができるツールである。
特徴はコストの安さと情報の拡散力だ。多言語で冊子を作成するとなると多大な費用がかかる上に、配布方法も考えなくてはいけない。しかし、このツールで多言語化すれば、実際の冊子を作る場合と比べてコストは、4分の1以下。電子化した情報は、無料のデジタルブックアプリ「Catalog Pocket」上に配信、興味があれば世界中どこにいても手に取ることができる。
佐久間氏は、「広報みよし」を「MCCatalog+」を活用して低コストで多言語デジタル化し、日本を超えて世界に三芳町の情報が届けることを狙った。自治体広報誌の5言語化(2015年当時)は日本初であり、多くのメディアに取り上げられたほか、国内はもとより、海外からの閲覧数も増えて、狙い通りの結果となった。
導入を後押ししたのは、ユーザー目線で作られた「MCCatalog+」の機能だ。「MCCatalog+には、文章をタップすると、もとのデザインを変えずに、予め指定されたテキスト部分だけが拡大して表示されるテキストポップアップという機能があります。広報誌をデジタル化するサービスはいくつかありますが、ほとんどはテキストをズームしないと読めません。レイアウトが崩れず閲覧性を担保できるこの機能は、とても気に入っています」
また、多言語対応の自動読み上げ機能を備えており、視覚障がいを持つ人にも町の情報を知ってもらえるという点も評価しているという。
どんな地域にもある「ダイヤの原石」
「MCCatalog+」による多言語電子配信と同時期には、三芳町広報大使である吉澤ひとみさん(モーニング娘。OG)と、「広報みよし」上で様々なコラボレーション企画を展開した。この結果、デジタルで「広報みよし」を読んだ町外の人から、実物も欲しいということで冊子の取り寄せの依頼が増えているほか、フェイスブックページで外国人からのコメントと「いいね!」が増えたり、ハロープロジェクトのイベント「SATOYAMA & SATOUMI movement」に町が参加するとブースに外国人ファンが訪れたりという効果もあった。
「広報みよし」の発行部数は1万6000部だが、「MCCatalog+」によって部数に捉われずに情報を届けられる手段を得た佐久間氏は、「どんどん情報配信をして、住民、町外、世界の方に三芳町のことを知ってもらいたいですね」と意気込む。
佐久間氏は「どんな地域にもダイヤの原石のような魅力があります。それを国内、海外に戦略的に広報をしていくことで、地域は大きく変わるはず」と指摘する。例えば三芳町は、都内から電車で25分にもかかわらず、たくさんのホタルが見られる場所がある。この情報を誌面で取り上げたところ、デジタル化の効果もあって、ホタルを見に来た人が去年の700人から今年は1300人に増えたという。
「今後は外国人旅行者向けに、町内のパーキングエリアなどに多言語表示のQRコードを付けた『広報みよし』のチラシを置き、Catalog Pocketに誘導することも考えています」
地方創生は、まずその地域の存在を広く知ってもらうところから始まる。広報誌の多言語電子配信に取り組む三芳町の事例は、多くの自治体にとって参考になるはずだ。
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お問い合わせ
- 株式会社モリサワ コンテンツプロモーション課
- TEL:03-3267-1378
- URL:https://www.mccatalog.jp/
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