稼ぐ農へ、「おいしい」を共創 女性起業家が挑む農業改革
工業から転身した異色のキャリアを持つ女性起業家が、農業ビジネスで注目を集める。エムスクエア・ラボの代表・加藤百合子氏は、生産者と購買者をつなぐ仕組みを構築。流通改革に挑むとともに、農業ロボットの開発でも大きな役割を果たす。
農業を支援しようと、2009年に加藤百合子氏が静岡県菊川市で立ち上げた「エムスクエア・ラボ」。生産者が育てた農産物を、こだわりの食材を求める飲食店や食品加工会社などに納める「ベジプロバイダー」の事業で、2012年、日本政策投資銀行主催の第1回「女性ビジネスプランコンテスト」大賞を受賞した。
ベジプロバイダーは、生産者と購買者をつなぐ。購買者がいつ、どんな野菜が欲しいのかを把握し、両者にとって最適な納期や量、価格を調整。営業の代行として生産者の要望に合った売り先を探しながら、生産現場にも足を運んで生育状況を確認し、購買者が求める品質を実現できるよう管理する。
独自に開発したITのデータ活用と、現場に精通する人の強みが、ベジプロバイダーの事業を支えている。
「おいしいを共創する」仕組み
加藤代表は、ベジプロバイダーの価値をこう語る。
「ベジプロバイダーは、生産者と購買者が『おいしいを共創する』ための事業です。生産者の思いをストーリーに乗せることで、売り先の惣菜会社やレストランの売り上げ向上にも貢献できます」
現在、契約をしている生産者は、静岡県内がメインで約90件。購買者は首都圏が中心で約50件。「ベジプロが目利きした野菜はおいしい」といった口コミが広がり、現在、契約数は順調に増えているという。
従来の農作物の流通では、出荷されモノが動くことで収益が生まれる。一方、ベジプロパイダーは、実際に売れた段階でマージンを得る仕組みだ。
「基本的にはマッチングフィーで、販売量に応じた手数料やコンサルタントのサポート料をいただいています。従来の商習慣とは異なるので、生産者にも購買者にも、理解してもらうのは大変です。最近は、実績がついてきたので、利益が出るようになりました。課題は、物流費を抑えることです。物流会社を使っていたら採算が合わないので、生産者の方に空き時間を利用して集荷に回ってもらうなど、低コストで運用できる仕組みをつくりました」
工業から農業の世界に転身
エムスクエア・ラボが、ここに至るまでの道のりは簡単ではなかった。そもそも、加藤代表は工業の世界を歩んできた技術者であり、農業の専門家ではなかった。
加藤代表は東京大学農学部で農業用ロボットの研究に従事した後、英国や米国に渡り、宇宙ステーションに植物工場をつくるNASAのプロジェクトに参画。結婚を機に静岡県菊川市に移り住み、夫の親族が経営する産業機械メーカーで減速機の開発責任者を務めた。
そして、出産を経て育児に携わる中で、食や農業の価値を改めて見直し、2009年にエムスクエア・ラボを設立した。
「農業の不効率さを知る中で、ITの仕組みづくりなど、自分にもできることがあるのではと考えました。もともと、父や祖父が経営者だったので、いつかは自分でもやってみたいと思っていたんです」
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