2021年6月号
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サイバー文明の夜明け

デジタルが変えた広告とマーケティング 「限界費用ゼロ」の論理

國領 二郎(慶應義塾常任理事、慶應義塾大学総合政策学部教授)

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デジタル化による社会構造や規範の変化を“文明の転換”と捉えて新たな文明における経済や経営のあり方を考える本連載。今回はデジタル化がもたらした「限界費用ゼロ」が経営に与える影響を考察する。特に大きく変化したのが広告やマーケティングの領域だ。

デジタル化で変わる
「限界費用」の重要性

前回解説したネットワークの外部性と並んで重要な概念が、ゼロマージナルコスト(Zero Marginal Cost)だ。経済学を学んだことのある方はマージナルコストが日本語では「限界費用」と呼ばれ、追加1単位を供給するために必要な費用のことであることをご存じだろう。農業や製造業の世界では供給量が増えるにつれて、条件の悪い土地を耕作したり、労働力を含む資源が不足したりするために限界費用が次第に増えていく(逓増する)ことが想定されている。この想定が重要なのは、価格の高騰と伴って減少すると想定される需要と供給量が一致したところで、需給がバランスすると考えられるからだ。つまり、限界費用と市場価格が一致したところで市場における需給が均衡(決定)される(図1)。

図1 ゼロマージナルコスト

出典:筆者作成

 

この話が情報経済を理解するうえで重要なのは、デジタル情報を複製する(つまり追加1単位供給する)費用がゼロに近いと言っていいほど低いからだ。これが極端なかたちで発現するのが放送で、エリア内に視聴者が1人しかいなくても1000万人いても放送のためにかかる費用は同じで、限界費用はゼロといえる

ゼロマージナルコストの概念を理解し、デジタル情報の供給にあたってはそれが限りなくゼロに近いことが理解できると、なぜネットの世界には無料のコンテンツやサービスが多いかが理解できるようになる。市場競争の中で価格が限界費用に近づいていくとするならば、限界費用がゼロの商品の価格はゼロが当然の帰結だからだ。

テレビとネットの形勢を逆転
させた“ターゲット広告”

無償サービス提供を爆発的に普及させたもうひとつのエンジンが、ターゲット広告だ。広告は「ターゲット」という冠をつける前から、マスメディア時代から放送の主要ビジネスモデルだったことには留意しておきたい。広告モデルはゼロマージナルコストと相性がいい。広告費でコンテンツをいったん作成してしまえば、そのコンテンツを1人に届けようが1000万人に届けようがコストは同じである。そうなると、より魅力的なコンテンツを作成し、それをコマーシャルとともに届けることに合理性が生まれてくる。

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