2021年6月号

MPDの本棚

企業内イノベーター、育成のカギは「組織のデザイン」

半田 純一(東京大学大学院経済学研究科 特任教授)

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――「企業内イノベーター」にテーマを絞った理由は何ですか。

歴史的にも日本では大企業がイノベーションを起こす、またはイノベーションを吸い上げて社会に実装させてきました。こうした状況をふまえ、2017年から10数社の企業とともに共同研究を行ってきた企業内イノベーターに関する調査分析を元にしたのが本書です。スタートアップやベンチャーの立ち上げという話は多いですが、すでに組織が出来上がっている企業の経営者にとっては参考にしづらく、本書ではそうした企業経営者の方へより役立つ視点を提供することを意図しました。

――組織がイノベーターを生み出すには「エコシステム」が重要ですね。

イノベーターを育て活躍を許容する組織をつくる、と明確に経営者が意思表示し、社内へ浸透させることに加え、資質のある人材がイノベーターとして「覚醒する」機会を提供することが必須です。本書に示したいくつかの原則を下敷きに、自社の状況にあわせてイノベーター人材が経験を積める組織と育成の仕組み全体をデザインすることが必要ですし、その仕組みを運用・維持する人材の配置も熟慮すべきです。

本書ではイノベーターを生む企業内のエコシステムを構成する要素として、アイデアを持っている人、社内を統合する人、専門家としてサポートする人、経営レベルに近くイノベーションの取り組み全体を支える"ガーディアン"の4つの役割を挙げました。この4つの役割すべてが揃うような舞台が必要です。特にガーディアンは組織の中で異質なイニシアチブを守りながら引っ張っていく役割です。主役であるイノベーター以上にガーディアン役の育成が難しく、経営者にとってはここが大きな課題かもしれません。

――本書から見えてくる「企業内イ ノベーター」の要件とは何でしょうか。

まず、何年もかかるイノベーションに耐え、少々の困難や批判にも揺らがない精神的な支柱を持っていることです。2点目は社内外の異質な人とのネットワーク。イノベーターが覚醒するときのトリガーに多様性との出会いや環境変化の経験がありますが、ここでネットワークが育まれます。3点目は、あらゆるイノベーションの出発点である「構想力」。そして4点目は、決して孤軍奮闘しないことです。いくら優秀でも、企業内でひとりだけでイノベーションを起こすことはできません。自らの足りないものを補ってくれるような人々と相互信頼に基づく関係を築くことが重要で、経営者は組織内でこうした条件を整えるべきでしょう。

 

半田 純一(はんだ・じゅんいち)
東京大学大学院 経済学研究科 特任教授、東京大学グローバルリーダー育成プログラム(GLP/GEfIL)推進室兼任

 

『リアル企業内イノベーター
革新を成功につなげるエコシステム』

  1. 半田 純一 編著
  2. 定価 本体2000円+税
  3. 日本経済新聞出版社
  4. 2021年3月刊

 

今月の注目の3冊

いま私たちをつなぐもの

拡張現実時代の観光とメディア

  1. 山田 義裕、岡本 亮輔 編
  2. 弘文堂
  3. 本体3500円(+税)

 

今号の大特集でも取り上げたように、地域経済において重要な役割を果たしている観光。2000年代に入ってからはスマホの普及に伴い、"旅とメディア"はより密接な関係となり、観光振興の中でメディア戦略は重要な位置を占めるようになった。本書では、"インスタ映え"目的の旅行や"ご当地ポケモン"による集客などを例に、ARやVRなどの拡張現実やSNSが当たり前となった時代の観光のあり方について、国内外のさまざまな事例から考察する。本書の内容は新型コロナの流行前から研究・執筆が進められてきたものではあるが、オンラインが前提となった今こそ、今後の観光事業でいかにデジタルメディアとリアルを融合させていくべきかという視点で読むことができるだろう。観光のあり方を深く考える手助けとなる1冊。

 

マイノリティデザイン

「弱さ」を生かせる社会をつくろう

  1. 澤田 智洋 著
  2. ライツ社
  3. 本体1700円(+税)

 

SDGsの普及とともに、「ダイバーシティ」や「インクルージョン」という言葉がビジネスやマネジメントの領域で存在感を増している。本書はこれまで見逃されがちだった「マイノリティ」の視点から価値を生み出すことを提案する1冊。著者の澤田氏はコピーライターでありながら、誰でも楽しめる「ゆるスポーツ」の開発に携わったほか、障害者向け衣服・ビジネスの開発なども手がける。こうした経験を元に、「マイノリティ」や弱みを起点にして、それを活かすアイデアの発想法・実践例を紹介。マイノリティや弱者というと障害者や子ども・女性が思い浮かびがちだが、弱みや少数派の視点は誰でもが抱えているはずだ。ビジネスによる社会課題の解決を考える人にとって、事業の切り口や価値提供のあり方の参考になるといえるだろう。

 

共感が未来をつくる

ソーシャルイノベーションの実践知

  1. 野中 郁次郎 編著
  2. 千倉書房
  3. 本体2700円(+税)

 

企業経営やマーケティングの観点から"共感"の重要性が言われて久しい。本書は特に地域社会と企業という観点から、共感を軸にしたソーシャルイノベーションの創発を考察した1冊。エーザイ、NTTドコモなどの大企業による地域プロジェクトに加え、信用金庫や自治体など多様な主体による地域活性の試みが紹介され、地域社会を舞台に事業を営む個人の思いや信念に基づく行動が共感を呼び、異なるセクターの人々や組織を結びつけ、大きな動きとなって地域を変えていく様子が詳細に記載される。最終章では編者の野中郁次郎氏がそれぞれの事例をまとめつつ、未来への提言として共通善を掲げることで人々の力を結集し、イノベーションを起こす「賢慮資本主義」を訴える。地域で事業を行う多く方の参考になるだろう。

 

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