劇場観覧施設の評価手法「ビューエスト」 ホール計画を可視化する

パナソニック・ライフソリューションズ社は公共施設等の劇場・ホールの計画段階から、見えやすさ・一体感等を数値化・VR を活用して完成イメージを視覚的に把握するソリューション「View-esT(ビューエスト)」を開始した。サービス開発に携わった有識者と共に話を聞いた。

パナソニック・ライフソリューションズ社は、これまで数多くの劇場やスポーツアリーナなどの舞台照明を手掛けてきた。その経験に裏づけされた機器設計ノウハウ・技術を活かして、同じく劇場設計のプロフェッショナルであるラムサ代表取締役の西豊彦氏と東京都市大学名誉教授の勝又英明氏と共に、劇場観覧施設の最適な計画・運用を支援する設計手法「View-esT(ビューエスト)」を確立し、ソリューション提供を開始した。

ラムサ代表取締役 西 豊彦氏(左)、パナソニック・ライフソリューションズ社 ライティング事業部 松尾 浩氏

勝又 英明 東京都市大学 名誉教授

観客の「見えやすさ」を追求

このソリューションは、劇場やホールなどの施設を計画段階から見えやすさ・一体感等の抽象的な表現を数値化し、VRによって可視化することにより、客席から舞台・ステージの見えやすさ等を計画・設計段階から評価することができるものだ。サービスを開発した背景として、現在稼働している劇場やホールなどでは、前方座席の人の頭や手すり等に遮られて舞台が見えないといったことが起きている。これにより、劇場の大事な要素の一つである「見る」という行為が疎かになっていると考えたパナソニック・ライフソリューションズ社では、様々な身長の人の視点や劇場の各客席の角度を考慮しつつ、舞台がよく見えるための新しい見え方の評価指標をつくるため、専門家とともにサービスの開発をしてきた。

同社とともに開発に携わった東京都市大学の勝又名誉教授によると、日本の公共団体が管理する劇場・ホールは現在全国に2000以上あり、かなりの数の公立ホールが40年以上前に建てられ、老朽化のため大規模改修や建て替え時期にあると言う。しかし勝又氏は、現在の観客の多様化により、多くの建物は次の設計時においては時代に合った設計に変えるべきだと主張する。

同じく開発に携わったラムサの西氏によると、公演・コンサートの時に客席から舞台が見えないという意見があることは事実として、これは劇場の着工前の基本計画を策定するときに実現が困難な状況のまま基本・実施設計の段階に入り、問題を把握、もしくは解決出来ず建設へ進んだことにより、実際に観客が入ってから判明することが多いためだと言う。

例えば、日本の多くの劇場・ホールの客席は、男性の標準身体情報のみで想定し設計されていることが多いが、実際には男性のみならず、女性や老人・子どもなど、それぞれ体格差がある。例えば、青壮年の女性であれば男性と比較して立った状態で平均12cm、座った状態でも5cm程度、目線の高さに違いがある。性別・年齢によって見え方は大きく異なるといえる。

VRによる直感的な検証が可能

これまで多くの劇場設計に関わってきた勝又名誉教授によると、行政で劇場ホールの基本計画を作る際に、劇場設計の経験や知見のない職員が担当することは多いという。その結果、よくあるケースとしては、収容人数ありきで計画を進めてしまい、劇場が完成してから観客席からの見えにくさが判明するといった事例があるという。

より良い劇場を作るには、行政の職員だけで進めるのではなく、基本計画段階で、劇場設計の専門的なコンサルタントの意見や、地元に根ざした上演団体などの意見を聞くことが重要だと言う。オペラやミュージカル、オーケストラ、演劇など、どの演目をメインに想定するかで舞台・客席やホールの構成などが変わってくるためだ。その上で、観客席からの見えやすさを「見える化」し、関係者に共有し計画を進めていくことが重要だという。

「こうした背景をもとにパナソニック・ライフソリューションズ社では、『見える』劇場の実現や、より良い舞台芸術・エンターテインメント観覧施設等の更なる発展向上のために、『View-esT』を開発し、劇場設計を担当する行政職員の皆様の業務課題に解決いただけるようなソリューションをご提供しております」と同社ライティング事業部の松尾浩氏は語る。

「View-esT」は、各座席から舞台の見え方を数値化すること、そしてその大きな特徴はVRにより「見える化」することだ。正面だけでなく、2階席やサイドのバルコニー席など、様々な客先からの視点が立体的に把握できるだけでなく、劇場内の色や角度なども簡単に修正できるため、計画・設計段階においてこの情報を事前に把握・共有することで、関係者は直感的な検証ができるようになる。また、このシミュレーションは特別な操作ソフトを必要とせず、PC・スマートフォンでも見ることが可能なため、広く関係者に共有することが可能だ。

更に臨場感を持って設計をチェックしたい場合は、東京・汐留にある同社のサイバードームにて、3Dで劇場のシミュレーションを体験することが可能で、まるで現場にいるような感覚で様々な角度からの見えやすさを検証することができる。同社ライティング事業部平間信裕氏は、「駅前開発などの都市計画などの策定段階でこのサイバードームで検証を行う自治体関係者が増えており、過去には首長自ら確認にいらっしゃったこともあります。東京のみの施設ではありますが、ぜひ劇場のシミュレーションにおいてもご来場いただき、ご活用いただければと思います」と語る。

サイバードーム内の写真

劇場観客席視点は、タブレットやスマホでも確認できる

今後の発展性としては、客席からの視点のシミュレーションを活用して、チケット販売の際に観客からの見えやすさを可視化できるようにすることで、座席ごとのプライスのマーケティングなどにも活用の幅があると同社では考えている。海外のようにSS席から F席まで細かい価値付けをすることや、花火大会などの屋外のイベントでも納得感のある付加価値の高い座席の販売戦略を立てることなども考えられるだろう。

「当社のこれまでの劇場やアリーナ・スタジアム等に関するノウハウを、文化芸術に寄与していきたいと思います」。と松尾氏は語る。


※東京・汐留のサイバードームは2021年5月まで改修工事中。詳細は問い合わせ(03-6218-1040)にて要確認

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パナソニック ライフソリューションズ社
環境計画支援VR:

https://www2.panasonic.biz/ls/lighting/vr/

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