六甲山上を先端技術の実装空間に 産官学民で取組むBe Smart KOBEプロジェクト

2020年5月、『六甲山上スマートシティ構想』を策定した神戸市。構想の一環として推進する『Be Smart KOBE』プロジェクトでは、六甲山上での先端技術を活用したサービスの実装を目指し、地元企業が異業種や大手企業との共創で実証事業を進める。構想の全体像や同プロジェクトについて紹介する。

六甲山上で企業の共創を推進

神戸市は2020年5月、六甲山上の事業環境を整備し、快適で創造性を刺激する魅力的なビジネス空間を実現していく『六甲山上スマートシティ構想』を策定した。

神戸市経済観光局 経済政策課 六甲山活用担当課長 益谷佳幸氏は「六甲山は、大都市の新幹線の駅から最も近い国立公園です。立地の強みと豊かな自然を活かし、観光目的のお客さまプラス、ビジネス利用での昼間の交流人口を増やしていこうと策定したのが、六甲山上スマートシティ構想です」と話す。

益谷 佳幸氏 神戸市 経済観光局 経済政策課 六甲山活用担当課長

同構想では、六甲山上において3つの空間づくりを目指す。美しい自然の中で企業やクリエイターが集積する〈自然調和型オフィス(没入空間)〉、データやIoT技術など先端技術を活用したサービスを実現する〈最先端テクノロジーの実装空間〉、企業、クリエイター、住民のコラボレーションが生まれる〈創造を生む共創空間〉。

自然調和型オフィス(没入空間)

最先端テクノロジー(実装空間)

創造を生むつながり(共創空間)

4カ年計画で進める同構想。昨年末には山上に光回線のブロードバンド環境を整備。この3月26日には、企業の保有所として使われていた建物をリノベーションし、山上ビジネス交流拠点として、共創ラボ『ロコノマド』をオープン。これを皮切りに、企業のサテライトオフィス、レンタルオフィス、シェアオフィスなどを増やし、2023年のKPIとして「山上オフィス企業会員数:200社」、「山上オフィス月あたり利用者数:延1800人」の誘致を目指す。

六甲山上のビジネス交流拠点 共創ラボ「ROKKONOMAD」(ロコノマド)(3月26日オープン)

構想の一環として昨年から進めているのが、『Be Smart KOBE』プロジェクト。先端技術を活用したサービスの導入を図るため、先端技術やデータを有する事業者からの事業提案を募集し、技術実証・実装を支援する。

「『Be Smart KOBE』では昨年度、今年度、六甲山上で4件のプロジェクトを支援しています。六甲山上で、様々な課題解決につながるような、あるいは、山上でコラボレーションが巻き起こるような案件を募集し、積極的に支援していきます」(神戸市 企画調整局 つなぐ担当部長 藤岡健氏)

藤岡 健氏 神戸市 企画調整局 つなぐ担当部長

今後のデータ活用への基盤を構築

「Be Smart KOBE」プロジェクトの1つとして六甲山観光と神戸デジタル・ラボが取り組むのが、LINE上でAIボット等を活用し六甲山の観光の利便性を向上する実証事業「六甲山おでかけLINE」。

六甲山には車以外の交通手段として、六甲山観光の運営するケーブルカーがある。ケーブルカーの窓口で販売するチケットは、片道や往復だけでなく、六甲山上の施設やイベントとセットになったものなど多種多様。観光客が最適なチケットを選択するのは難しく、混雑時にはチケット売場に長蛇の列ができる。また、リアルタイムに山上の施設やイベント情報を把握することが困難であるといった課題もある。

「これまで窓口でのコミュニケーションについてはかなり丁寧にやってきましたが、コロナ禍で対面での接客時間を減らす必要も出てきました。これらの課題を解決し、お客さまにより快適に六甲山を周遊していただく手段として、LINEを使った実証事業に挑みました」(六甲山観光 取締役 観光事業部長 兼 営業推進部長 上田準氏)。

一方、1995年の阪神淡路大震災をきっかけにデータ、デジタルの重要性に着目し、立ち上がった神戸デジタル・ラボ。京都大学と共同研究で特許出願したデータ活用技術なども持ち、ビッグデータの活用や分析などの知見は深い。

2021年2月1日~末まで行った実証事業では、六甲山観光を事業主に、神戸デジタル・ラボがシステム構築を担当。接客軽減によるコロナ対策と、AIチャットボットを活用した周遊プランの推薦や、施設情報・クーポンのデジタル配信による、利用者の利便性向上の両立を目指した。

観光客は、LINEのアプリケーションに必要な情報を入力することで、自分に合った適切な周遊チケットの提案や、六甲山上の施設情報のデジタル配信を受けることができ、施設にチェックインすることでクーポン等の得点をゲットできる。さらに、質問をLINEに書き込めば、AIチャットボットが24時間365日回答をしてくれる。

観光客は自身のLINEの画面からチャットボットへの質問やクーポンの受け取りが可能

関連施設でのチェックインの様子

「今回、AIチャットボットを構築するのに、マイクロソフトの『QnA Maker』を採用しました」(神戸デジタル・ラボ デジタルビジネス本部 金谷 拓哉氏)。

エンジニアでなくても簡単に自然言語処理を解析するエンジンを作れることや、AIサービスが充実しており、将来的に他機能との連携でより幅広いサービスを作れることなどが、採用の理由という。

金谷 拓哉氏 神戸デジタル・ラボ デジタルビジネス本部

同実証事業では、894人のLINEアプリ登録者を獲得。
「今回は登録だけでなく、相性診断を行ってもらうことで700名以上の観光客の方の属性データが蓄積することができました。今後の情報発信や需要予測のためのデータ活用への基盤が構築できたかと思います」(神戸デジタル・ラボ 金谷氏)

LINEを通じたチャットボットや観光客のデータの蓄積などはマイクロソフト社のMicrosoft Azureのサービスを利用し、開発された

一方で、「4月以降の本格的な運用に向けては、LINEアプリをもっと幅広く周知していくことが課題」と六甲山観光の営業推進部 課長補佐 日下雄一氏。

また、アプリの中身としては、AIチャットボットの回答について、実証で蓄積したデータをもとに、異なる言い回しの複数パターンの質問に対し、同じ回答ができるようシナリオを充実させていく必要がある。

左から六甲山観光の日下 雄一氏(営業推進部 課長補佐)、上田 準氏(取締役 観光事業部長 兼 営業推進部長)、上村 好美氏(営業推進部)

スマートシティ構想は市民中心

今回の実証事業においては、地元企業が地元IT企業と協働し、マイクロソフトの技術を使って新たなサービスを共創した。

「『Be Smart KOBE』に関しては、産学官民連携で取り組んでいく必要があると考えています。地域の事業者と世界的な企業との共創の取り組みによって、地域住民が抱える課題を解決していく視点も重要だと考えています」(神戸市 藤岡氏)

スマートシティの推進は、課題解決中心主義、市民主体がベース。

「市民の方々の日々の問題解決。利便性の向上を実現するサービスを優先して手掛けていきます。とりわけ、神戸の象徴的な場所、地域資産として市民にも認知されている六甲山の美しい自然と先進的な技術、あらゆる枠を超えて有機的につながるコミュニティが融合した環境は、私たちの発想に刺激をもたらしてくれるでしょう。市民の課題を解決する、市民の利便性にアタッチメントするアプローチを産官学民で進めていきたいと思います」(神戸市 藤岡氏)。


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