コロナ危機下の変革ニーズで活発に M&Aは構想を実現する手段

「新しい日常」、DXや脱炭素の流れの下で生き残るために、M&Aに注目する企業が増えている。コロナ前の状態にはもう戻れない、大きな変化が起き、将来に向けた事業ポートフォリオの革新は必須だ。成功のためには、自前主義をやめ、色々な相手とのコラボの在り方を普段から構想しなければならない。

新型コロナウイルス感染症の拡大抑制に気を配りながらの生活も、間もなく1年になろうとしている。社会の全てが影響を受ける中で、企業のM&Aの取組は、むしろ活発化している。デロイト トーマツ グループ CSOで事業構想大学院大学客員教授の松江英夫氏は、「2021年はM&Aがますます活性化するはず」と分析する。

松江 英夫(まつえ・ひでお)事業構想大学院大学 客員教授デロイト トーマツ グループ CSO
<主な著書>
「ポストM&A 成功戦略」「クロスボーダーM&A成功戦略」「自己変革の経営戦略」(いずれもダイヤモンド社)など。フジテレビ系列「Live News α」レギュラーコメンテーター

危機対応の現金確保、ガバナンス
社会の変容もM&Aを活性化

その理由は、大きく2つにまとめられる。1つは、目下のコロナウイルス危機に対処するため、事業売却を考える企業が増えたこと。

「感染症流行の先が予測できない中、なるべく現金を確保するために、不採算事業や非中核事業を売却しようという流れです。またここ数年の企業のガバナンス強化の動きも、完全子会社化や事業売却が増える原因となっています」。

2つ目の要因は、さまざまな「トランスフォーメーション」の動きだ。まず、デジタルトランスフォーメーション(DX)。民間企業に始まり、政府や自治体でもDXが加速している。また、グリーントランスフォーメーション(GX)については、2020年10月の所信表明演説で菅首相が「2050年までに脱炭素社会の実現を目指す」と言及。特に企業に対し、地球規模の気候変動への対策が求められているというトレンドもあり、官民の取組がにわかに加速しているところだ。

さらに、ポートフォリオ・トランスフォーメーション(PX)についても考慮する必要があると松江氏はいう。これは、既存事業の需要が戻らないことを想定し、既存事業を縮小し、新たな成長事業を探索し投資をするサイクルが加速することを意味する。1つ目の理由「コロナ危機に対処するための事業売却」に長期的視野での事業構成の入れ替えを含めた戦略判断ともいえる。

コロナ危機以前から、日本企業の自己資本利益率(ROE)が低いことは指摘されていた。各社の実態から考えれば、より高いパフォーマンスが期待できるのにそうならないのは、1企業の中に収益性の高い事業と低い事業が混在しているためだ。そこで、不採算事業を切り出す検討が始まっていた。

そんな中で、感染症が社会環境を大きく変えてしまった。事業分野によっては、終息後もプレコロナの状態には戻らない可能性がある。「そこで、事業ポートフォリオを戦略的に変えていくPXのニーズが強まっており、その手段がM&Aということです」と松江氏は話す。

以前からPXにM&Aを活用している事例の1つとして、松江氏はオムロンを挙げる。オムロンは、海外のヘルスケアベンチャーの買収や、海外企業との合弁企業の設立などを積極的に進めつつ、2019年には車載機器製造子会社を日本電産に売却している。「売却して得た資金を活用して別の企業を買収し、選択と集中を実行。事業規模を変えずにパフォーマンスが向上している例です。自社が立てた中長期的な将来見通しに基づきM&Aを活用して成功している例と言えます」。

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