『未来を実装する』―社会との対話が、新たな価値・未来を創る
――本書ではテクノロジーを社会実装する際の4原則にインパクト、リスク、ガバナンス、センスメイキングを挙げています。特に社会へのインパクトを考えるためのツール「ロジックモデル」の活用が印象的です。
企業ではまだあまり使われていませんが、ソーシャルセクターでは補助金を得る際に、公共セクターでは政策が社会に与える影響をロジックモデルで示すという方針になりつつあります。
デジタル領域だけで完結するビジネスが少なくなってきている今、事業の構築は規制との兼ね合いや社会課題の解決という点に軸足が移っており、またオープンイノベーションの観点でもセクター間の協働が重要です。ロジックモデルはこの際の共通言語のひとつです。事業や製品、会社として公益に資するインパクトをどこに設定するのか。ここをコミュニケーションの軸に据えることが第一です。
――コミュニケーションはセンスメイキング、納得感の醸成に関連しますね。
「コミュニケーション」だとメッセージの発信側が主体ですが、「センスメイキング」では相手が主体です。"相手の納得"を意識してもらえるかなと思って、あえて「センスメイキング」という言葉を使いました。
――多様なセクターと協働してビジネスを進めるとき、企業がルールや制度などのガバナンスに関与することも増えそうです。
法制度を変えるという点は、最もビジネスにかかわってくるところです。例えば、デジタル技術を活用して元来の立法趣旨に則った形で新たな法のあり方も提案できる。これによってより便利なサービスや新しいビジネスが生まれる可能性もあり、事業者にとっては本当の意味でマーケットをつくることにつながると思っています。
――本書では「社会への」ではなく「社会との」実装だと指摘されています。
「社会への」というと、実装を行う主体が実装したい技術を社会に押し込んでいくイメージがあります。そうではなく、社会と一緒に受け入れていく・一緒によりよい社会に変えていくという意味合いで、「社会との」としました。スタートアップの仮説検証でも、自らの仮説をぶつけて否定されると落ち込む、という場合がありますが、これも本来は一緒に検証しながら進めていくという認識のほうがお互いにとってよいあり方だと考えています。
――技術が一方的に社会を変えるのではなく、双方が変化しつつ受容するのが「社会実装」ということですね。
- 馬田 隆明(うまだ・たかあき)
- 東京大学産学協創推進本部 FoundXおよび本郷テックガレージ ディレクター
『未来を実装する テクノロジーで
社会を変革する4つの原則』
- 馬田 隆明 著
- 定価 本体2200円(+税)
- 英治出版
- 2021年1月刊
今月の注目の3冊
コシノジュンコ 56の大丈夫
- コシノ ジュンコ 著
- 世界文化社
- 本体1800円(+税)
1987年から22年間、パリコレクションに参加、日本人ファッションデザイナーとして確固たる地位を築くとともに、ファッションという領域を越え幅広く活躍するコシノジュンコ氏。「アラウンド80」の今もなお精力的に活動を続けており、昨年にはZ世代向けストリートブランドをローンチした。
本書ではそんなパワーあふれるコシノ氏が「逆境」や「好奇心」「センス」など、56のテーマについて思いを綴る。「苦しいときほど明るく」という項目では、新型コロナという予想だにしない状況に対しても"今しかできないことを、今にうちにやってみる"と前向きに語り、"焦らず、慌てず、諦めず"と締めくくる。
柔らかな言葉遣いのなかに、世界の一線を走り続けてきた人物の強さをひしひしと感じる一冊だ。
イノベーターはあなたの中にいる
創造的起業家に変わる体験のデザイン
- 齊藤 義明 著
- 東洋経済新報社
- 本体1800円(+税)
野村総合研究所にて、2030年に日本が直面する課題の解決策を探るための「2030年研究室」室長を務める著者が、全国100人の多種多様なイノベーターたちとの出会いをもとに、「創造的起業家」となるための手法をまとめた実践手引書。
本書では、新たな価値を生み出すイノベーターの素質は誰の中にも「部分的人格」として存在するという考えのもと、そのイノベーターとしての人格を引き出すための手法を、実際に日本各地で行われた事例をもとに紹介。数々のセッションを通して、多様な人々との交わりのなかで個人は創造的起業家に変化していくことがわかる。起業は特別なことではなく、自らの内にある思い、そして周囲の人々との"坩堝"のなかでかたちとなり育っていくものであることが感じられる。
100億マニュアル
ロケット・マーケティングで顧客を掴め
- 梅澤 伸嘉、西野 博道 著、橋本 陽輔 監修
- 日本経営合理化協会出版局
- 本体19500円(+税)
「100億円の壁」突破に難渋する中小企業経営者は多い。本書は数々のヒット商品を生み出し、伝説のマーケッターと名高い梅澤伸嘉氏と西野博道氏、そして2人の理論をまとめ「100億ロケット・マーケティング」の体系を立案した橋本陽輔氏による大著。外資系大手企業のなかで秘匿されてきた、顧客のニーズを掴んで一気に売上を伸ばす手法論を、中小企業の経営者や社員自身が実践できるようにアレンジし、さまざまなツールとともに紹介する。監修者の橋本氏は、売上は「商品力」と「販売力」の掛け合わせであり、この2つの最大化が100億円突破への道だと説き、売れ続ける強い商品・ビジネスモデルは市場に新たなカテゴリを拓く「市場創造型」であると指摘する。本書を座右に、自身の事業構想をより精緻化させてはいかがだろうか。