「脱ジェンダー」で見出される市場 規範の変化が生む新たな価値
報道などを通じて"ジェンダー"という言葉を意識することが増えた方も多いのではないだろうか。世界が大きく変化するなかで文化的・社会的な性役割が見直される今、一人ひとりの"生きやすさ"を改めて考えることは、新たなニーズ・市場の発見にもつながりそうだ。
注目が集まる"ジェンダー"
最近、新聞など主要メディアで「ジェンダー」という単語を目にする機会が増えた。国内に目を向けたとき、第2次安倍政権において「女性活躍」は重要な政策の一つであった一方、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(以降、SDGs)でも、ジェンダーは重要目標として掲げられている。SDGsを構成する目標・ターゲットのカバーする領域は多岐にわたるが、目標5は「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」と設定されている 1)。
こうして、ジェンダーへの注目度が高まる一方、ジェンダーに関する知識の不足から、職場などでジェンダーの観点から正しい振る舞いかどうか判断できないなどと困惑している人も実は多いのではないだろうか。昨年は、複数の企業広告が「ジェンダーの観点からふさわしくない」と社会的批判を受けた。それでは、ジェンダーの観点から「ふさわしい」企業的行動・個人的振る舞いとは何を指すのだろうか。
ジェンダーとは何か
そもそもジェンダーとは何だろうか。一般にジェンダーとは「生物学的な性(セックス)」と対比される形で、「社会的・文化的に形成された性に関する概念」と定義される2)。簡単に言うと、「男性器の有無」が「生物学的な性」で、「男の子は青色、女の子はピンク色の服」などと考えるのが「ジェンダー」である。ジェンダーとは、外部的あるいは社会的通念であるため、個人の意思や指向との間に乖離がしばしば生じる。ジェンダーへの配慮が不足していることが理由で批判を受けた広告は、ジェンダーに基づいた特定の規範を無意識に反映し、消費者(受け手)がその規範を押し付けられたと感じ反発した、と分析することもできる。
逆に、既存のジェンダー規範から外れたニーズを取り込んだ変化も起きている。20年ほど前は、オーダーメイドのランドセルはほとんどなく、色も男子は黒、女子は赤が定番だったが、最近では、個人の好みに合わせてカラフルなランドセルを選べるようになってきたのは、その一例だろう。
日本の男性とジェンダー
ジェンダー平等というと、社会・経済的な文脈での女性の活躍推進が真っ先に思い浮かぶかもしれない。しかし、ジェンダーは男性にも大いに関係している。例えば、自殺である。警察庁の発表によると、2019(令和元)年の自殺者約2万人のうち、約7割は男性である。10代から80代までの年齢階級別にみても、自殺者に占める男性の割合はすべての年齢階級において、女性より高い(図)3)。また、世界的にみても自殺率は男性の方が女性に比べて高く、世界保健機関(WHO)によれば、2016年における男性の年齢調整済み自殺率(人口10万人につき13.7人)は女性のそれ(人口10万人につき7.5人)の約1.8倍であった4)。
図 男女・年齢階級別自殺者数(2019年)
未成年者においても男性自殺者数が女性に比べて多いことから、男性を自殺に陥らせる要因は、子どものときから男性の周囲に存在していると考えられる。2016年の厚生労働省による自殺対策に関する意識調査5)では、相談や助けを求めることに抵抗を感じる割合が、男性は女性に比べ約10ポイント高いことが分かった。海外の調査6)は、社会から男性に期待される役割(競争における勝利、仕事、弱音を吐かない、等)が男性の自殺率の高さに影響している可能性があると指摘している。また、生活の経済基盤をパートナーに求める男性は日本ではしばしば「ヒモ」と揶揄されるが、これは「男性は家庭の経済基盤を担うべき」というジェンダー規範を背景としている。
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