オファーが絶たない人気建築家 礎は6年間の前向きなニート生活

日本で今最も注目される建築家、藤本壮介。驚きと心地よさが共存するその作品は他に類を見ず、大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーをはじめ、海外からのオファーも後を絶たない。若くして日本を代表する建築家となった藤本だが、最短距離を来たわけではない。トップとなってもおごらず、建築と向き合うその熱き思いや、彼独自の道の切り拓き方について迫る。

文・油井なおみ

 

藤本 壮介(建築家)

世界が注目のフランスの集合住宅は
シンプルな発想を貫き独自の形に

独創的、唯一無二。建築家・藤本壮介の作品は、しばしばそう評される。

とくに2019年に発表されたフランス・モンペリエの集合住宅、L'Arbre blanc(白い木)は17階のマンションに大きく伸びたベランダが放射状に数多飛び出し、こんもり茂った大樹のようなユニークな佇まいとなっている。

しかし、藤本は自らの建築方法やアイデアについて、「シンプルに考えたら」、「単純に」などという言葉を使って説明することが多い。

「30代前半くらいまでは、自分が何か新しいものを作ってやるんだという意識がまだ強かったと思います。それが次第に海外のプロジェクトに呼ばれる機会が増え、各国でいろんなものを見ていくにつれて、わずか数十年程度の自分の人生でやりたいとかやりたくないということなんて、たかが知れてる気がしてきて。世界中にはそれぞれの気候風土や文化によって何百年も続くライフスタイルがあるわけです。積み上げられてきた多様な文化の重みを考えれば、その大きな歴史をきちんと汲み取ってつくり上げることこそいちばん大切なんだと気づかされました」

その土地土地の気候や生活に寄り添い、文化や歴史の重みを理解し、それをどう未来に繋げていくか。そこに建築家としての度量が試されると考える。

「もちろん、指名を受けて仕事をする以上、自分なりのオリジナリティは必要です。ただ、必要とされる要素に対して素直になったほうが逆にユニークなものができたりするんです」

モンペリエという場所はフランスの南方に位置し、温暖な気候で人々も一年中、ピクニックをしたり、外で昼寝をしたりと、屋外で日中を過ごすことが多いのだという。

「L'Arbre blancは、100戸ほどの住宅が入っているんですが、モンペリエの気候や人々の生活を考えたら、大きなバルコニーをいくつもつけたら気持ちいいし、面白くなるだろうな、と。そう思っても、常識的な判断が邪魔をして、素直にそれを実現できないこともあると思います。ストレートに表現することが、いちばん難しかったりするんです。でも、常識の壁を取り払い、実現すべき本質に逆らわず注力した方がよいものができると思うんです」

L'Arbre blancのバルコニーはそれぞれ十分な広さがあり、半屋外的な生活も楽しむことができる。また、近隣とも程よい距離感を保ちつつ、互いの姿が確認でき、会話も可能だ。

「新しい建築でプライバシーもありながら、昔の生活にあったコミュニティの形、いわば立体長屋みたいなイメージでつくりました。中と外を完全に分けることもできるけど、中から外への隔たりを曖昧にして連続的に使うこともできるんです。フランスのプロジェクトではあるけど、白黒つけないという、いい意味での日本的な曖昧さがあるんですね。こういう考え方は、単なるオリエンタリズムじゃなくて、人間の多様性の本質的なものとして今後注目されるんじゃないでしょうか」

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