時間と空間の制約から解放され 問われるビジネスモデルの設計

デジタル化による社会構造や規範の変化を"文明の転換"と捉えて新たな文明における経済や経営のあり方を考える本連載。今回はデジタル時代の"トレーサビリティ"について考察する。ヒト・モノ・情報が追跡できる社会では、ビジネスモデルの設計も根本的に変わってくる。

変化する「トレーサビリティ」の意味

トレーサビリティのもたらす経済の可視性の高まりが、さまざまな業界におけるビジネスモデルを変え、最終的には社会の仕組みそのものを大きく変える力を持っていることを論じた。今回は少し、立ち返ってそもそもトレーサビリティとは何か、それがどのように可視化につながるのかを解説したい。

トレーサビリティとは、主として産業界の品質管理の用語として用いられてきた用語である。業界や目的によって定義や適用される範囲が異なるが、おおむねある製品の原料調達から生産、販売、そして消費(あるいは廃棄)までを追跡することが可能である状態のことを指す。ここで「追跡」が何を意味するかが一つのポイントになって業界ごとの多様性が出てくるのだが、基本は「いつ」「どこ」「何が(含む誰)」の情報が基本である。

食品業界などでは、食品安全の文脈でトレーサビリティが重要視されてきた。食中毒事故などは、同時に複数の箇所で発生することがあるのだが、そんな場合に原因箇所を特定することが急務となる。そんなときに、それぞれの食品について、いつどこを経由して届いたものであるか、具材レベルまで記録されていれば、問題食品が共通して通過した「時間」と「場所」を特定することが可能となり迅速に対応することができる。追跡対象となるモノとヒトを総称して「オブジェクト」と呼び、時間と場所を総称して時空間と呼んだときに、「商品のライフサイクルにかかわる全てのオブジェクトについて、時空間位置履歴をとる」ことがトレーサビリティの意味ということになる。

情報の「組み合わせ」が価値になる

食品の例を考えるとよくわかるが、複数のオブジェクトを追跡していると、それらが同時に同じ時空間にあることがある。これによって、従来は関係がないと思っていた2つの事象に実は関係があるということがわかったりする。このことが大きな意味を持つのは、単独ではあまり大きな価値を生み出さない情報が、他の情報と組み合わさることで大きな意味を持つようになることがあるからだ。例えばAさんとBさんがお店CでシャンパンDを飲んでいたというような情報はお店のセールスプロモーションを行うものにとってとても大きな価値を生む情報の「組み合わせ」といえるだろう(図1)。

図1 情報をつなぐトレーサビリティ

単独では価値がない情報が他の情報とつながることで価値が生まれる

出典:筆者作成

 

技術的にはトレーサビリティはオブジェクトにID(識別・同定子)を付与して、それをチェックポイントで「認識」し、時間や場所の情報とともに記録することで実現する。その際に合わせてその時間と場所でオブジェクトを巡って何が起こったかを記録することもある。産業界ではバーコードやRFID(電子タグ)と呼ばれる電波を当てるとIDを返すチップなどが活用されている。今ではそれらがスマホでQRコードを読み込むようなかたちでも実現している。実際のトレーサビリティはIDを振られたオブジェクトごとに、何時にどこにあったのかをチェックポイントを通過するときに確認するような作業によって実現している。

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