いけばなで紡ぐ「自然との共生」 日本の文化の本質は地方にある
カーネギーホール主催公演で初めて華道家として出演を果たし、スペイン国王夫妻来日の際には、天皇皇后両陛下ご臨席のもと、献花・室礼を手掛けるなど、グローバルに活躍する華道家・辻雄貴。大舞台での華やかな活動が目に留まるが、辻が大切にしているのは地方の小さな町。地方創生を進めるとともに、自然環境の保全や世界への発信を見据えている。
文・油井なおみ
ガウディに影響され目指した建築家
模索を打破したのはいけばなだった
静岡の自然の中で、昆虫を追いかけ、興味を持ち育った辻がアントニ・ガウディに惹かれたのは自然な流れだった。
「小さいころは漠然と生き物が好きだったんですが、次第に自然界が作り出すフォルムに興味を持つようになって。ガウディを知ることで、人間が自然からインスピレーションを受けて、あんなにも美しい造形物や建築物を作り出すことできるのか、と衝撃を受けたんです。建築というものの前に、ガウディの建築手法に憧れました」
大学、大学院と建築科に進学。学ぶほどにガウディへの思いは強まる一方で、自分自身は具体的に何をどう表現していくべきか、絞り込めなかった。
「自分が所属する研究室とは別に、日本の建築文化や古民家に取り組む研究室あって、一緒に京都・奈良の社寺仏閣や古民家を周るようになったんです。その中で、日本人が自然をモチーフに木でお寺や庭などを表現していくと、ガウディの石づくりの文化とは異なる日本人特有の造形が生まれるんだということを知り、興味を持ちました」
とくに惹かれたのは、昭和期に活躍した作庭家・重森三玲の作品。調べていくうちに、彼やイサムノグチ、草月流の創始者・勅使川原蒼風らが立ち上げた『新興いけばな宣言』に出会い、その新たな思想を持った芸術運動に刺激を受けた。
「自分の建築を追求していく上で、いけばなは必要な思想になると感じました。いけばなを掘れば掘るほど、自分が目指す建築に届く気がして、のめり込んだんです」
しかし、そんな辻の姿を周囲は奇異なものを見る目で眺めていた。
「研究室ではみんな図面を引き、基礎的な筋肉をつけている時期だったんです。そんな中で、図面も疎かに、研究室で花と向き合う僕は頭の中もお花畑のおめでたいやつだと思われていたんじゃないかな(笑)。普通は、基礎をしっかり身につけてから応用や発展、という考え方ですよね。でも僕は、守破離で言うなら、破や離のほうをまず目指したというか、大学時代のうちに、他にはない自分の表現や思想というものをしっかり築くべきだと考えていたんです。そこが固まれば技術は後からついてくる、と思っていたんですよね」
次第に辻は、学生ながら『植物デザイン』という雑誌に創刊時から巻頭エッセイの連載を任される存在となっていった。いけばな的な目線で建築などのデザインについて語るという、辻にしかできない仕事だった。ところがこのキャリアが就職活動では仇となる。
「面接を受ける先々で"だったら自分でやっていくほうがいいよ"と言われて。今思えば、ありがたいアドバイスなんですが、当時はどこにも受け入れられず、自らの意思というより、社会や周囲から無理やり事務所を立ち上げさせられた、という感覚でした(笑)」
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