カンヌ選出、深田晃司監督 文化は声なき声を表現する

2016年、『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画賞ある視点部門審査員賞を受賞するほか、数々の国際映画祭で賞を受け、世界にその才能と名を知らしめる気鋭の映画監督、深田晃司。精力的に作品を発表する一方で、映画界のセクハラ・パワハラ問題、そして、コロナに対するクラウドファンディングなどにも取り組み、映画界の発展にあらゆる面から尽力し続けている。

文・油井なおみ

 

深田 晃司(映画監督)

文化価値は経済的評価では測れない
だからこそ公的支援の継続は必須

2017年、ハリウッドの映画プロデューサーによるセクシャルハラスメントを発端に起こった#Me Too運動は瞬く間に世界中に広がり、今もその動きは衰えを知らない。

また、今年6月には、日本の映画配給会社アップリンク社のパワーハラスメントに対し、元従業員らが訴訟を起こしたことで旧態依然とした映画界の実像があぶり出されている。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言による営業自粛要請は、小規模文化施設に大きな打撃を与えた。映画界でとくに苦境に立たされたミニシアターは、全面解除となった今も先行きは不透明だ。

そんな逆風吹き荒れる今の映画界で、国内外から高く評価される作品を撮り続けながら、ひとつひとつの問題に向き合い、改善に向けて声を上げ続けているのが、深田晃司監督だ。

存続の危機に立たされている全国のミニシアターの運営継続を支援するため、濱口竜介監督とともに発起人となり、「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」というプロジェクトを立ち上げ、3億3,000万円を集めた。

「病気でも死にますが、経済が絶たれても人は死にます。3億3,000万円という数字は華々しいですが、結局、1館あたりに配れるのは300万円前後。それで1〜2カ月持ちこたえたとしても、このコロナ禍はまだ続いているんです。営業が再開した今も、座席は1席おきに空けなければいけません。採算を取るのが厳しい状況が続く中で、国の支援が終わってしまったら、閉館の連鎖は避けられないでしょう」

根本的な改善として、公的な援助の恒常化が必要だと考えている。

「映画や音楽、演劇を市場原理主義だけに委ねると、共感性、エンターテイメント性の高いものだけが残り、マイノリティが淘汰されてしまいます。ミニシアター・エイドのステイトメントにも書きましたが、僕は『映画は民主主義にとって重要である』という言い方をしていて。要するに多様性です。多数決ではなく、いかに社会の多様な意見を取り込んで制作に反映し、様々な考えや感情を作品として可視化できるか。そういう多様な表現ができる環境を作ることが民主主義にとって重要で、例えば、黒人の権利を回復するための運動に対し、これまで映画に限らず多くの芸術が貢献してきました」

文化の価値は経済的評価で測れるものではない。だからこそ、声なき声を表現するための公的支援が続く環境を構築していくべきなのだと深田は語る。

「演劇の場合、有名人が出るような商業演劇と違って、小劇場はそもそも経済的に成り立っていません。それでも演劇は、行政や文化庁にずっと働きかけていた歴史があったので、ミニシアターが助成対象に入っていないような映画業界と違い、助成金制度も早くから整備されていました。映画の場合は、業界内でも"産業"という認識が強くて、"芸術だ"となかなか自分たちで言えないというか、自覚が少し遅れているんですね。とくにミニシアターの位置づけが曖昧で。ミニシアターって、サイズの問題ではなくて、役割がちがうんです。商業性、共感性が高くなくても優れた作品や、ハリウッド以外の海外の良作、例えばイラン映画など、シネコンではかからない作品が上映される場であるんです。ヨーロッパだと、アートハウス、アートシネマなどと呼ばれてシネコンと一線を画し、役割を明確にしています。アートだから、市場原理主義だけでは測り切れないから支援する、という考え方です」

深田はゴッホを例にとる。

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