2020年7月号
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持続可能な社会のための千年科学技術

時をかけるCOVID-19 もしもパンデミックが予見できたなら

沖 大幹(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

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現代社会のキーワード“持続可能”。これが具体的にどういったことか、イメージできるだろうか。本連載では、長年、水文学の視点から環境の持続可能性を研究してきた沖大幹氏に、千年先の世界を見据えた持続可能な社会の要件をさまざまな角度から解説いただく。

1年前の今、見過ごされた警告

1年前の2019年5月に戻るタイムトラベルが可能であったとする。

世は令和の始まりである。ゴールデンウィーク中のテレビには高速道路の渋滞の様子が映し出され、例年に比べると混雑が分散している…などと報じられている。

下旬にはアメリカのドナルド・トランプ大統領が来日し、安倍晋三首相との安定した親密さをアピールする。日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告は日本にいて、保釈されているが取り調べ中だ。

そんな日本で、街を行く人に「今年の暮れから新たな感染症が中国を起点として世界各国に蔓延し、来年の5月末までに500万人が感染して30万人が死亡する。特にアメリカ合衆国やヨーロッパで深刻な被害が生じる。ゴールデンウィークには国境はほぼ閉鎖されて人の往来はなくなり世界中の航空会社が経営危機に陥る。日本でも学校は閉鎖され外出も制限されて、観光業や外食産業は壊滅的な打撃を受ける。テレワークが一気に浸透し、ラッシュ時の乗車率は7割減少する。当然オリンピックは1年延期とされるが、開催される見込みは厳しい」と伝えたとして、いったいどれだけの人が耳を傾けてくれただろうか。

しかしながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴って我々の想像を遥かに超えた事態が現に進行しつつある。

ところが、世界中の誰も全く想定していなかった事態というわけではない。

世界の感染者数や死者数情報の収集・集計・公表のデファクトスタンダードとなっているアメリカのジョンズホプキンス大学の研究者らは2018年に報告書「パンデミック病原体の特徴」を発表し、「グローバルな壊滅的生物リスク(Global Catastrophic Biological Risks:GCBR)」という概念を提唱して、「もし放置されたままならば、大きな苦しみや人命の損失のみならず、政府、国際関係、経済、社会の安定、あるいは世界の安全保障に対して持続的な損害をもたらすであろう」と警告している。

さらに、GCBRとなり得るパンデミック病原体の特徴として、効率的なヒトからヒトへの感染性、それなりの致死率、有効なまたは広く利用可能な医学的対策がないこと、免疫のない集団、免疫系の回避を可能にする病原性因子、呼吸器系での感染、そして、潜伏期間中および/または軽症の発生中に感染する能力、があげられている。これらはほぼCOVID-19の特徴にあてはまる。

すなわち、一般の我々にとっては想定外のパンデミックであっても、専門家には想定内のリスクだったのである。

では、もし我々がGCBRの脅威を認め、1年前にCOVID-19の感染拡大を予見していたとしたら何ができたであろうか。発現前にワクチンの開発に取り掛かるのは難しいにしても、非常時における行動計画の策定、病床数の増強、体温検査やPCR検査など監視体制の整備、マスクなどの消耗品や医療機器の増産・備蓄、あるいはテレワークや遠隔教育など接触機会を減らす社会システムの準備など、感染拡大を抑え、医療崩壊を未然に防ぐ対策がそれなりに可能であっただろう。

「Vaccinating The Baby」、Holzstich nach Gemälde von Edouard Hamman(1819~1888)画。この絵に描かれたイギリスの医師エドワード・ジェンナー(1749~1823)は、天然痘ワクチンの開発者。ワクチンと各国の協調した取り組みのおかげで、天然痘は世界で初めて根絶された感染症となった

もしこれが、2010年・2030年
に起きていたら

一方で、人があちらこちらへ移動したり、みんなで集まったりしてこそ売り上げが成り立つ業種では、事前にできる対応は限られていて、パンデミックが生じたらじっと事態の収拾を待つしかない。ただし、ヒトの移動が制限されてもモノの生産や輸送は止められないので、移動や集会の自由が制限されて売り上げが落ちると見込まれる業界から、製造や物流、あるいはバーチャルなコミュニケーションなどへの転換が事前に進んでいた可能性はある。

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