販売、行政、社会的制度 社会を変えた技術以外のイノベーション

ICT技術の飛躍的な発展で、イノベーションといえばテック系のイメージが強い。しかし、イノベーションとは本来、より幅広い概念だった。過去の事例から、技術的ではないイノベーションの例を振り返ってみよう。

イノベーションという言葉は、2000年以前には「技術革新」と和訳されることが多くありました。技術革新と訳すと、技術でしかイノベーションは起こせないというイメージが定着してしまい、問題が多いと思っていました。

イノベーションの本来の意味は、「社会に対する新しい価値創造」です。本来、技術革新だけではない広い概念なのです。具体的には図1に示したように、(1)新しい技術、(2)新しい行政の方法、(3)新しい販売方法、(4)新しい社会的制度、によって達成される「社会に対する新しい価値創造」全てを含みます。

図1 革新のあり方はさまざま

イノベーションは、社会に対する価値創造全般を指す

 

技術に関しての例は多数ありますので、この記事ではあえてそれ以外のイノベーションの例を取り上げ、その意味について議論したいと思います。

地方行政のイノベーション

新しい行政の方法の例では、千葉県松戸市が、1969年に松本清市長の下で始めた「すぐやる課」が良い例でしょう。1960年代終盤の松戸市は、ベッドタウンとして人口が急増し、社会的なインフラ整備が追いついていませんでした。そこで、市民の不満をできるだけ反映させた行政にするために開始された制度です。その後、薬剤師だった松本市長は、マツモトキヨシというドラッグストアのチェーン店の創業者として知られるようになりました。松本氏は、市民が感じている問題点の把握、顧客が感じている問題点を解決したのです。

1969年に発足した松戸市の「すぐやる課」は、当時の松戸市長松本清氏(上)の発案によるもの。50周年を迎えた2019年には記念式典も開催された

販売に関するイノベーション

販売に関するイノベーションの古い例では、まず「三井越後屋」の例があります。江戸時代の近江商人、三井高利は、江戸に呉服屋を開くにあたり、当時の主な販売方法である「屋敷売り」、すなわち屋敷を訪れ、それぞれの顧客の要望に合わせた品揃えで売る「訪問販売」ではない売り方を考えました。それが「店前現金掛け値なし」です。お店で正札販売、現金取引です。一見さんお断りではなく、現金を持っていけば、誰でも価格の交渉なしで買えるので、当時の一般庶民には大変に好評でした。売っている反物は同じでも売り方を変えたのです。明治になり、三井越後屋は、三越というデパートになりました。

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