イラストレーター長場雄氏が語る「売れること」と「自分の表現」

昨年11月、東京・小田急線下北沢の駅構内に新たな商業施設「シモキタエキウエ」が開業。そのアートワークを手掛けたのが長場 雄だ。気づけば今、街のあちこちで長場の作品と出会う。そして、世界でもその作品が注目されている。イラストレーターとして不動の地位を築いた長場は今の、そしてこの先の自分をどう見ているのか。

文・油井なおみ

 

長場 雄(イラストレーター アーティスト)

絵が好きな少年時代の延長から
"売れるもの"を追求する日々へ

そこにあるのはシンプルなラインのみ。無駄をそぎ落としたタッチであるのに、無機質さとは真逆の温かみやユーモラスさがある。しかも、誰を描いたものなのか、どういう人物なのか伝わってくる。

そんな唯一無二の長場のイラストは、挿絵や広告、装丁画のみならず、ファッションやカルチャーなど、さまざまなシーンからのオファーが国内外を問わず、引きも切らない。

子どもの頃から絵を描くのが好きだった長場。高校卒業後は美大に進み、デザイン学部で学ぶが、正直、将来のことまでは考えていなかったという。

「デザイン業界について聞くと、やっぱり大変そうで、正直、就職する気になれなくて。今、そのころの自分を見たらムカつくと思います(笑)。何にもないのに"自分は人とは違う"とどこかしら思ってたんでしょうね」

卒業後は、Tシャツ制作会社にアルバイトで入社。出荷作業を担当した。

「まだ小さい会社だったので、社長が近くにいて、デザインが足りない、グラフィックが足りない、と言っていたんです。それで"僕にもやらせてもらえませんか"と言ったら、すんなり"いいよ"と。そこから本格的にグラフィックやものづくりを始めたんです」

当初は、グラフィックらしいシャープなデザインからやわらか目のキャラクター風のものまで幅広くデザインした。その時、社長に言われた言葉が今の長場の基盤を作った。

「"売れるものを考えてください"と。それまで自分が好きで作ってきたものは、世の中ではマイナーな、真逆なものだったんです。どう気持ちを整理して向き合えばいいのか、最初は戸惑いましたが、こういう作風やモチーフは売れたな、これはそうでもなかったな、と試行錯誤していきました。いわゆる"売れるもの"と"自分の好きなもの"の間を探って、よりいいものを作ろうと考えたんです。人を惹きつけるものについて、みっちり考え、取り組んだ経験が今に繋がっていると思います」

消費社会と表現したいことの狭間で
今何を描くべきかに気づく

ところが、5年が過ぎた頃、別の思いが込み上げるようになり、長場は退社。フリーランスとなった。

「このまま消費社会にのめり込んでいっていいのかな、と疑問に感じてきて。せっかくなら、自分の本当にやりたいことに向かって、自分の才能で勝負したいと思うようになったんです」

フリーランスとなっても表現を定めることはせず、クライアントの依頼に応じ、様々な作風で描いていた。

「作風はいろいろ試し試しで、定まりませんでした。でも、毎日、楽しかったですね。いろんな人と出会って、好きな絵を描いて。仕事というより、遊んでいるっていう感覚」

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