女子バスケ・馬瓜姉妹 両親はガーナ人、壁を乗り越え日本代表に

東京五輪で女子バスケットボールのメダル獲得のキーパーソンとなりそうな選手といえば、この姉妹。ともにアンダーカテゴリーから日本代表で活躍し、また、そのまぶしい笑顔と明るいトークでメディアの人気者にもなっている馬瓜エブリン選手とステファニー選手だ。大きな壁も乗り越えてきた若きふたりが目指す先には、スポーツ界の新たな道筋が広がっている。

文・油井なおみ

 

馬瓜 ステファニー、馬瓜 エブリン(女子バスケットボール日本代表)

バスケットボールとの出会いが
辛い日々を乗り越える力となった

ドライブでシュートに切り込むスピード感と圧倒的な攻撃力が持ち味の馬瓜エブリン、24歳。腕の長さを生かしたシュートやリバウンド、またここぞというときの器用なプレイが光る馬瓜ステファニー、20歳。

姉妹といえ、性格もプレイスタイルも真逆だが、それぞれの持ち味が試合を大いに盛り上げる期待の選手だ。

「バスケットボールの魅力は、最後まで何が起こるか分からない緊迫感。3クォーターまで20点差で負けていたのに、いきなりひっくり返して勝つ事もあれば、ずっと1、2点差で争っていたのに、最後の0.6秒で勝敗が決まったり。スピード感があって夢中で観戦できる競技だと思います。やっている方はお腹が痛くなりますが(笑)」

競技の魅力をエブリンはそう語る。

バスケットボールをよく知らない層からも人気を集める注目の選手となったふたり。姉妹ともに愛知県豊橋市で生まれ、以来、愛知県を地元に育ってきたが、その見た目で幼い頃は辛い思いをしばしば経験してきたという。

「両親がガーナから移住して、日本に定住したんです。両親とも日本人ではないので、お互い、小さい頃はいろいろありました。姉妹で話し合う事はなかったですが、身近で見てきたので、妹がいじめられていたら自分が飛んでいく、という事もありましたね」

そう語る姉、エブリンに対し、妹のステファニーは、
「"バックに怖いお姉ちゃんがいるぞ"と守られた部分はあったかな(笑)」

今でこそ、笑って話せるが、本当に苦しい時期もあったという。

「解決法も発散法もわからず、親にどうしたらいいのかと話をした事もありました。でも結局、自分は他の何者にもなれない。ありのままの自分を受け入れるしかないんだ、と子どもながらに思いました」

エブリンが自分なりに壁を打破しようと決意した小学4年生の頃。ちょうどミニバスケットボールと出会った。

「小さい頃から両親がテレビでNBAを観ていて、ずっとドウェイン・ウェイド選手に憧れていたんです。その頃からバスケットボールの選手になりたいという夢はありました」

最初に入ったのは、通っていた小学校の普通のクラブ。"バスケットボールを楽しもう"というのが目的で、強いチームではなかったという。

「そこで日本の精神や礼儀、チームメイトを大切にする心を学びました。バスケの楽しさを知ったし、協調性を身に着け、周りの子たちとも打ち解け合えるようにもなったんです。バスケがあるから楽しい。楽しいから、人に何か言われても面白くしてかわしちゃおう、と思えるようになったんです。そういう事ができるようになって、人の輪も広がっていきました」

一方、ステファニーはテニスや水泳などをやっていて、バスケットボールに興味はなかったが、4年生になると、半ば強制的に入部させれられたという。

「姉の性格的なものもありますが、周りとすぐに打ち解けるのを見て、チームスポーツの魅力は何となく感じていました。姉とは真逆の性格ですが、始めたら、やっぱり仲間と一緒に取り組んだり、一緒に喜ぶという事が本当に楽しいと思えて。姉が先に始めてくれていてよかったと思います」

日本代表を前に立ちはだかる
壁を乗り越えた両親の愛と決意

バスケットボールを通じて、ようやく辛い経験を乗り越える術を身に着けたふたり。先に小学校を卒業したエブリンは、"バスケを楽しくやれたらいい"と考えて、当然のように地元の公立中学校に進学。入部したバスケ部は地区予選止まりの普通の中学だった。

ところが、中学2年生のとき、第1回アジアU16 女子バスケットボール選手権大会の日本代表メンバーに中学生で唯一選出。このとき、国籍の壁が立ちはだかった。

「両親に、この先、日本代表としてプレイしていきたいという気持ちをきちんと伝えました。生まれも育ちも愛知県の私たちと違い、親にとっては大きな決断だったと思いますが、私の気持ちを受け入れて日本国籍を取ると決めてくれました。ただ、帰化の申請って大変なんですよ。両親は長年日本で働いているので会話に不自由はありませんが、漢字を使ってレポートを作成したり、テストを受けたりしなくてはいけないので、相当勉強していました。子供心に、何十年も日本で暮らして心は日本人なのに、こんな大変な思いをしなければ認められないのかと、歯痒い思いもしましたが、両親には本当に感謝しています。このときから、必ず日本代表になって、恩返ししようと強く思うようになりました」

3歳下のステファニーも姉を凌ぐとも劣らぬ実力で活躍。姉に続いてアンダーカテゴリーで活躍し、女子バスケットボールの名門高校、桜花学園に入学。姉妹それぞれ、夏のインターハイ、秋の国体、冬のウィンターカップと高校三冠を達成した。

そして2017年、ふたりはほぼ同時にトヨタ自動車の女子バスケットボールチーム『アンテロープス』に所属。そして、東京五輪の日本代表の選考メンバーとして鎬を削っている。

ゴールに向かって切り込むエブリンの他を圧倒する疾走感に痺れる

リバウンドや相手パスのカットもステファニーの長い腕がしなやかに制する

今、変わりつつある
日本の社会とスポーツ界

バスケットボールの八村塁選手や陸上のサニブラウン・アブデル・ハキーム選手など、両親いずれかの出身国が日本と異なる選手の活躍が目覚ましい。彼らの活躍は刺激になるという。

「彼らはいわゆるハーフですが、恐らく私たちと同じような体験をしてきたと思うんです。それを乗り越え、あそこまで活躍しているのは励みになるし、目標になります」

エブリンはある取材で、「東京五輪の頃には、両親ともに外国人の選手が増えると思う」と語っている。

「日本は高齢化で若者が減っているという状況ですが、外国から移住する人口は増えていて、今その2世となる世代が日本のスポーツ界でも活躍し、強くなっているという事が起き始めています。そういう選手が活躍できるのは『遺伝的な能力であって、日本人ではないからだ』という意見も少なからずありますが、日本で育って日本の心を持つ仲間という事を知ってもらえたら、もっと受け入れられるのかなと思います。これからハーフや2世の人たちがごく自然に活躍できるためにも、自分がやるべき事は、日本代表としてチームに貢献して結果を残す事。それから、日本の代表として改めて、より深く日本文化を大切にしていかなければと思っています。今の時代、SNSもありますし、いろいろ発信もしていきたいと思いますね。とはいえ、ふざけた事ばかり発信していますが」

そう笑うエブリンの横でステファニーは、
「姉は表では楽しい姿ばかり見せていますが、根は本当に真面目。姉が目指す事に、自分も協力したいと思います。日本で育つ子どもたちが自由にやりたい事に進める未来にしたいですね」
と姉の熱い思いを支える。

東京五輪金メダルとこれからの
日本スポーツ界のためにやるべき事

男子バスケットボールはプロリーグ化を果たし、また、八村選手や渡邊雄太選手など海外で活躍する選手も増えている。ふたりはどう見ているのか。

「Bリーグの成功を間近で見ていると、自分もあの大歓声の中で試合をしたいと思いますね。ただ、女子はチーム間の格差も大きく、プロ化には課題がまだあるので、実現には少し時間がかかりそうです。アンテロープスで一昨年まで一緒にプレイしていた大神雄子選手は、選手の移籍問題などについて協会に働きかけ、そのお陰で自分の意志で移籍できる選手が増え、自分も移籍できました。選手が声を上げて改革していく姿を間近で見られたのは、このチームに来て良かった事の一つです。プロ化もそうですが、バスケットボール界をよりよいものにするために、自分に何ができるかという事も考えるようになりました。もちろん、WNBAへの挑戦も目標としてあります。女子では大神選手などWNBA選手は3名いらっしゃいますが、男子に比べ、非常に少ないというのが気になります。自分では力が及ばないかもしれませんが、それでも挑戦していく事は、これからのバスケ業界にとっても何か残せるんじゃないかと考えています」

とエブリンは語る。バスケへの思いは大きく広がるが、目下の目標は姉妹ともに東京五輪。エブリンは5人制の日本代表強化合宿に招集されている。

「まだ選考段階なので、さらにアピールしていかないと。最後の12人に選ばれるべく、まずは9月下旬開催のアジアカップで結果を残します」

ステファニーは、今年は3人制の3×3の日本代表強化合宿に招集された。

昨年10月のアジアカップで、3×3の代表に怪我で欠員が出た為、未経験のステファニーが試合当日、突然の大抜擢。練習する間もなく出場し、銀メダルを獲得したという経緯がある。

「今年は3×3で結果を残します。東京五輪はどちらで選考されるのかわかりませんが、どちらでも活躍できるよう、両方に全力で取り組みます」

東京五輪で目指すは、5人制、そして新種目の3×3ともに金メダル。勝つためになすべき事は? エブリンは、「日本は平均身長がすごく低いので、その分、運動量でどうカバーするか。切り替え、走り、いずれも早さを追求する事が最大の課題です。あと、外からのシュート率を上げていかないと。これは私自身の課題でもあります」

また、ステファニーは、
「5人制は、日本の持ち味でもある、オールコートを使った切り替えの早さが活かせればメダルは見えてきますが、3人制はハーフコートなので、さらなるスピード感が必要となります。相手チームに1人大きい選手がいるだけで、そこをどうカバーするかも重要になるので、瞬時の判断力とスピードをさらに突き詰めていきます」

スピード感溢れる力強いプレイのエブリンと手足の長さを生かした華麗なプレイのステファニーの活躍は、純粋にバスケを観戦する上で胸躍る存在だ。

五輪でのメダル獲得はもちろん、今後のスポーツ業界に風穴を空けるべく、活躍に目が離せない。

 

馬瓜(マウリ)エブリン
女子バスケットボール日本代表

 

馬瓜(マウリ)ステファニー
女子バスケットボール日本代表