不確実性の時代、哲学・文学の視点で「未来」を問い直す

世界の複雑性が増し、予想外の出来事が数多く起こる中で、未来の不確実性は増している。現在の延長上とは異なる「オルタナティブな未来」を描くためには、科学や技術の進化を予測するだけでなく、哲学や文学などの文化的な視点が求められる。

あらゆる病気が治るようになり、予防でき、長い寿命を健康に生きられるとしたら。もしくは、ゲノム編集テクノロジーによって自在に食料や燃料が得られるようになるとしたら。それらの目指す未来のさらに先には、どのような社会の可能性が現れるのでしょう。最終回は、科学と技術の進化によって実現する未来社会のさらに先を考える、文化的な視点について取り上げたいと思います。

「早く、正確に」とは異なる価値

テクノロジーは草原にある石や自然に発生した火が、石斧(260万年前)や火で調理すること(100万年前)に用途転用されたように、何かを可能にするための方法です。一方で方法の先には、新しい暮らしのあり方、そして暮らしの先に生まれる新しい文化の可能性があります。

DELITAは、デンソーのプロジェクトチームが生み出した未来の自動配送モビリティのプロトタイプです。自動運転と配送モビリティを組み合わせた自動配送モビリティの実現は、街の中を小型の配送モビリティが自在に行き来し、自由にものを届け・取り寄せられる社会を可能にしてくれます。

デンソーが開発した自動配送モビリティのプロトタイプ「DELITA」のイメージプロダクト

このことを今の配送システムの延長上で考えると、いかに早く、正確に、送り手から受け手にものを送り届けるか、を考えることになります。「でもそれで、街の人たちは幸せになるのだろうか?」と問いかけると、送り手と受け手の2者間ではやりたいことが実現し、より良い暮らしになっているものの、街の中で自動配送モビリティに出会う人たちはむしろ、「邪魔」「怖い」といった感情を抱くかもしれません。

DELITAは、"いかに早く、正確に"とは異なる価値の可能性として、街の人たちが幸せになる自動配送モビリティを検討した、「遠回りになりながらも人に協力をし、助けてもらってはお礼をする、早さを最上位に置かない自動配送モビリティ」です。そこには、「送り手と受け手の2者間だけでなく、途中で出会う人たちともコミュニケーションを取れれば、街全体の心の豊かさや幸せを増やすことが出来るのではないだろうか?」という第2の未来の可能性が組み込まれています。

立ち止まり内省することの意義

未来は不確実であり、120年前のガソリン自動車が普及する前の時代と現代では大きく暮らしのあり方が異なるように、不確実性の中にある未来に対する可能性は大きな幅を持っています。その幅を活かすためには、現在の延長上とは異なる価値や暮らし、文化のあり方を問いかけることが大切です。

ケヴィン・キャッシュマンは、著書『優れたリーダーは、なぜ「立ち止まる」のか』(英治出版、2014)の中で、高い複雑性に対する効果的な振る舞いは、より加速的で活動的な行動による対処ではなく、立ち止まり内省し問いかけることによって革新的な視点を生むことにあると述べ、Eric E. Vogtらの以下の著述を引用します。

「クリエイティブな問いを発することが忌避される理由は、私たちの文化がすぐに解決策を出すことに重きを置き、白か黒か、二者択一の思考を好んでいるからである。さらに、ものすごいペースで進む生活と仕事の中では、重大な決断を下す前に触発的な問いやイノベーションの契機となる会話をじっくりと行う機会があまりない。こうしたことに加え、詳細な分析や、迅速な決断や、断固たる行動こそが「本物の仕事」だという一般的な認識が相まって、深く問いを掘り下げ、重要な問題に対して広範囲の戦略的会話を交わすのが効果的な「知的作業」だという考え方と齟齬をきたしている。」(「The Art of Powerful Questions」(Eric E. Vogt, Juanita Brown, and David Isaacs,2003 ))

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