2018年7月号

台頭する新メディア・ビジネス

プロジェクションマッピングは一時の流行? ライブメディアの未来

谷田 光晴(SPOON 代表取締役、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特別招聘講師)

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近年、流行しているプロジェクションマッピング。しかし、早くから、プロジェクションマッピングを使った作品を手掛けてきた、SPOON・谷田光晴氏は、現状に危機感を募らせる。そして、メディアの未来は「デジタルとフィジカルの融和」にあると語る。

京都府が推進する新観光圏「海の京都」の一環で制作されたウォータープロジェクションショー『新・羽衣伝説 転生離合』。日本最大級のウォータースクリーンに加えて、直上40mを超える水柱と、レーザー照明、空間照明を合わせた横幅150mのスケールで、一大スペクタクルショーを展開した

谷田 光晴(SPOON 代表取締役/慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特別招聘講師)

――プロジェクションマッピングをめぐる現在の状況を、どう見ていますか。

谷田 近年、全国各地でプロジェクションマッピングが企画されていますが、単に「目新しさ」や「楽しさ」だけを売りにして、中身がなく品質の低いプロジェクションマッピングを行っていても、いずれ飽きられ、廃れていくと思います。

デジタルカメラやスマホのカメラで撮影した映像は明るく撮れたり、後から明るさ、色彩を調整できるので、Youtubeなどの動画では、プロジェクションマッピングは明るく綺麗に見えます。しかし、実際に会場で見ると、Youtubeで見るよりも暗いし、鮮やかに見えなかったりします。動画をネットなどで見てから来場した人からは「こんなものか」と思われて、次につながらない恐れがある。

なぜ、その場所で行うのか。大切なのは、その場所の歴史を紐解いて、現在と結び付けたり、その場所に必然性のあるストーリーを描くことです。

私は、プロジェクションマッピングが日本ではあまり知られていなかった2009年、上海でプロジェクションマッピングの企画・演出を始めました。2011年、日本に拠点を移しましたが、当時から、その場限りの「目新しさ」「楽しさ」を売りにすることへの危機感がありました。

来場者の心に残るような体験をつくり出さなければ、プロジェクションマッピングに未来はないと考えていたんです。

地域との関係性が問われる

――今、どのようなプロジェクションマッピングが求められているのですか。

谷田 まず、メディアとは何か。私は「何かと何かが出会う場」と定義しています。メディアは、人と人、人とモノ、モノとモノなど、様々なものが出会う場です。そして、プロジェクションマッピングとは、「場所をメディア化」する手段であり、地域との関係性が重要になります。

プロジェクションショーの舞台となる「場所」とは、単に人通りの多さや集客のしやすさで決めるものでなく、会場となる場所とその地域に住んでいる人との関係性、その地域で育まれてきたものによって決まり、私は、その土地の歴史や住む人たちの想いをコンテンツに落とし込んでいきます。

私は、自治体が主催するプロジェクションショーの総合監督も多数務めています。自治体からは、どのような観光名所や特産品を映像で紹介するのか、具体的なリクエストもありますが、私はそれを一通り聞いたうえで、それぞれの要素をまとめ上げる大きなストーリーを一から考えていきます。

――具体的には、どのように作品をつくっていくのですか。

谷田 2016年、京都府が推進する新観光圏「海の京都」の一環で企画されたウォータープロジェクションショー、『新・羽衣伝説 転生離合』の総合監督を担当しました。

私はまず、フィールドワークで現地の歴史や民話を調査し、地元の羽衣伝説をもとに、原稿用紙800枚ほどの全く新しい物語を創作しました。それを「原作」にして、17~18分のショーを制作しました。

京都府と言うと、南部にある寺社仏閣が観光資源として有名ですが、北部には、海をはじめとした豊かな自然環境があります。「海の京都」は、京都の北部にも外から観光客を呼び込むための施策ですが、私は、誰よりも地元の人にショーを見てほしいと考えました。

そこに住む人にとっては、当たり前のように存在している「海」が、実は大きな魅力を持つことを伝える。そして、来場した人たちは、地元で受け継がれてきた伝説の新しい目撃者になれる。それが、その場所で開催する意義だと考えました。

『新・羽衣伝説 転生離合』は、久美浜湾の海水を吹き上げてつくった日本最大級のウォータースクリーンに加えて、直上40mを超える水柱と、レーザー照明、空間照明を合わせた横幅150mのスケールで展開される一大スペクタクルショーです。

開催会期2日間4回の放映で約2万人が来場し、地元の人たちにも数多く訪れて頂きました。『新・羽衣伝説 転生離合』の制作期間は1年半。私は、1つ1つのプロジェクトに時間をかけるので、制作数は少ないんです。

プロジェクションマッピングは
「ツール」の1つにすぎない

――谷田さんは数々の作品を手掛けていますが、プロジェクションマッピングの技術をどのように位置づけていますか。

谷田 プロジェクションマッピングは、どういう歴史をたどって生まれてきたのか、それを正しく理解している人は少ないと感じています。

20世紀半ばから活躍していたチェコスロバキアの舞台芸術家、ジョセフ・スボボダ氏は、プロジェクションマッピングの原型とも言える空間演出を既に行っていました。照明やスライド・フィルム映像など当時の先進技術を組み合わせて、舞台上に現実とは異なる世界をつくり出していたのです。

現在ならプロジェクションマッピングと呼ばれるような映像技術は、光による演出の1つという位置付けでした。つまり、プロジェクションマッピングは、ツールの1つにすぎません。

2012年、奈良県が主催した『NaraFantAsia YAMATO』では、レーザー照明とプロジェクションマッピングが高次元で連携する演出を行いました。会場となった奈良公園全体をレーザーで包み込むことで、観客が会場に到着した瞬間に、まるで作品の中にいるような感覚を体験できるようにしました。

2013年に愛知県小牧市の施策、小牧山城築城450年記念事業で企画された『AZALEA』では、プロジェクションマッピングに加えて、人によるライブパフォーマンスを組み合わせました。

今後は、CGの世界だけではなく質量のあるモノを動かすような演出にも挑戦したいと考えています。例えば、舞台『オペラ座の怪人』では、大きなシャンデリアの落下シーンが強い印象を与えますが、物理的なモノの動きは、観る人の心を揺り動かします。

私にとって重要なのは「空間全体」であり、プロジェクションマッピングはその要素の1つ。最終的には、プロジェクションマッピングが当たり前の演出手法になり、プロジェクションマッピングという言葉自体が無くなれば良いと考えています。

2012年、奈良県が主催した『NaraFantAsia YAMATO』では、レーザー照明とプロジェクションマッピングが高次元で連携する演出を行った

谷田氏は企業のプロモーションも手掛けており、2014年には、大阪が世界に誇るランドマーク「道頓堀グリコサイン」の点灯式の総合演出を担当した

デジタルとフィジカルの融和

――これから「メディア」は、どのように変わっていくと見ていますか。

谷田 人間の錯覚を利用して立体的に見せていたとしても、プロジェクションマッピングはデジタル世界の中にとどまる技術であり、そこに限界があります。これから「デジタルメディアとフィジカルメディア(ライブ・イベント等)の融和」が進んでいくと思います。

実は、デジタルはフィジカルに嫉妬しており、デジタルの進化はフィジカルのほうに向って起こるものです。例えば、CGは解像度をどんどん上げて、現実に近づこうとしていますが、現実が持つ解像度の高さにはかなわない。フィジカルメディアが持つ情報量は膨大です。

また、Youtubeの視聴やVRで得られるのはバーチャルな「体感」であり、リアルな「体験」とは異なります。イベント来場者の声がSNSで拡散する現象は、オリジンとなる「体験」が、他の人に「体感」としてシェアされていると言えます。

オリジンは、フィジカルメディアにしかありません。今、ビジネスでは、デジタルメディアの「体感」に多くのお金が流れこんでいますが、今後はライブエンタメがより注目されて、「体験」をもたらすフィジカルメディアへの投資は増えていくでしょう。

ウェアラブルの軽量化などテクノロジーの発展も、デジタルがフィジカルの領域へと進出するのを後押しします。

そして、フィジカルメディアが進化した先にあるのが、OR(超越現実、Over Reality)です。

ORは、僕が個人的に掲げている概念です。ORは現実(リアル)の置き換えではなく、これまでディスプレイの向こう側でしか実現できなかったことが、現実でも可能になる。デジタルの世界で実現されていたことを、フィジカルの世界でどうカタチにしていくか。そこにメディアの未来があると思います。

2015年、和歌山国体の盛り上げ施策として企画された和歌山城ライトアップ『光の回廊』。和歌山城の石垣を人々が4ヵ所のプロジェクションマッピングを見ながら回遊するという、日本初の「回遊型プロジェクションライトアップ」として実施された

 

谷田 光晴(たにだ・みつはる)
SPOON 代表取締役
慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特別招聘講師

 

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