現代美術家・束芋 「普通であること」の先にある『新しい表現』

映像インスタレーションとは、映像を投影して空間自体を作品として体感させる、現代美術の手法である。束芋の浮世絵を思わせるタッチとアナログ感を醸す独特のアニメーションは、国内外で高く評価され、ダンスや伝統芸能など、他ジャンルからのコラボレーションのオファーも後を絶たない。現代美術家・束芋の原動力に迫る。

文・油井なおみ

 

ウォールドローイングに映像を投影したインスタレーション作品「flow-wer arrangement」。17年にロサンゼルスで発表され、日本でも今年2-3月にギャラリー小柳にて発表 束芋 flow-wer arrangement 2018年  ⒸTabaimo / Courtesy of Gallery Koyanagi

普通だから、ヘタだったからこそ
目指した自分だけの道

束芋の美術家としてのスタートは、大学卒業直後から始まる。すぐに大きな賞を獲り、今日まで展覧会などのオファーが絶えない。まさに順風満帆そのものだ。

しかし束芋はその道のりを、「諦めの連続」と振り返る。

最初の「諦め」は学生時代に遡る。

「高校で成績が伸びず、学業は諦めて美大を目指しました。ですが、なかなかデッサンが上達できなくて。第一志望の美大の合格者の中で、デッサンの得点が最下位という結果になってしまいました。でも、色彩構成という科目がトップだったので、補欠入学できたんです」

大学での4年間が美術家としての自分の基礎を作ったと束芋は語る。

「美大ってやっぱり面白い人が多いんです。奇抜なファッションやユニークな発想など、個性に溢れていました。もちろん、私もその中で"個性的でありたい"と思っていましたが、面白いことも言えないし、独創的なアイデアが溢れてくるわけでもない。隣りにいる人たちを見ていると、自分がいかに普通かということを受け入れざるを得ないんです。大学で自分を客観的に見ることができたお陰で"特別な人間"になることを早めに諦められました」

その代わり束芋は、「トップの成績で卒業する」と心に決めた。

「まじめに授業を受け、いい評価をもらいきちんと就職したいと思っていました。普通の人の発想ですよね(笑)。そのために、大学でできることは誰よりもまじめに、全力でやりました」

美大といえば専攻の分野にひたすら取り組むイメージだが、束芋の母校ではあらゆるアートの技法をひと通り学べた。それが糧になったという。

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