産官学マッチング 企業のリソースと自治体の期待

異業種企業が連携しつつ、自治体の課題解決やよりよいまちづくりへの貢献を目指す。3回目の研究会では、各企業が持つリソースを紹介しつつ、企業間が協力したプラン作りを議論し、産官学連携の最適なマッチングを探った。

第3回の研究会では、行政と企業連携の在り方をめぐる議論が盛んにかわされた

産官学連携を成功させる要因を、その過程をリアルタイムに追いながら探っていくベストプラクティス研究会。3回目の研究会は、2018年1月24日に表参道の事業構想大学院大学で開催された。兵庫県豊岡市を実際に訪問し、市長と面談するフィールドワーク前の最後の研究会。どのような面から、豊岡市の未来に貢献できるのか、議論を戦わせた。

リピーターを増やす秘策

3回目の研究会では、各企業が、企業連携の際に自社が提供可能なリソースを元に、豊岡市で利用した場合の想定ケースを発表した。

日本航空(JAL)では、豊岡を訪問する観光客の「リピーター化」に注目した。JALグループでは、コウノトリ但馬空港の利用促進の取り組みを市と協力して進めている。その過程で、豊岡市に繰り返し足を運ぶのは、地元の人に歓迎される体験をした人だということに気づいた。今回の研究会では、リピーター化を促進する「プレミアム会員プログラム」を構築することを提案。コメ作り体験や民泊を介して土地の人と家族のような交流ができる機会を設けること、その際にNTTドコモのモバイル機器を用いたデータ収集をし、会員プロフィールを網羅的に集め、交流の機会を増やすこと、などのプランを挙げた。

NTTドコモも、地域に誇りを持たせる人材育成の重要性を指摘した。豊岡市の大きな課題である人口減を食い止めるには、教育のために豊岡を出た若者が、再び地域に帰ってくる必要がある。子供たちが豊岡に住む誇りを学ぶためには、まず大人が郷土への愛着を深められるような教育が必要だ。また、豊岡市を何度も訪問するリピーターを増やすためには、地域に誇りを持って暮らす人との交流が欠かせない。

そこで、NTTドコモが考えたのが、住民による観光の企画立案。住民が立てた企画を企業が磨き上げることで、住民を主役としつつ、プロの視点も取り入れた観光振興が可能になる。NTTドコモが手始めとして提案したのは、「写真コンテスト」だ。その場所に住んでいる人だからこそ分かる美しいものを写真で表現し、世界中の人にアピールできるという。

また花王は、町の人々の暮らしに注目し、住民を中心に観光地としての魅力を発信することを提案した。地方創生では住民にスポットが当たることが少ないが、今回の研究会では、住民の気持ちや満足度を指標の一つとしてもよいのではないか、という問題提起だ。そして、観光資源のある街の住民へのインタビュー調査を実施することや、観光とは直接関係がない住民にも応援をしてもらえるような、地域に愛着を持たせるイベントの開催などを有望な施策として例示した。

一方、JTBでは、豊岡市の産業として重要な農業に目を付けた。その土地ならではの食や食文化を、その土地で楽しむことを目的とした旅である「フードツーリズム」が人気を集めていることから、豊岡にもその受け入れ体制を作る。域内で生産されている食材を、最高においしい状態のまま域内で消費できる体制を設け、観光と産業の両方を振興しようという作戦だ。そのために、農業生産者向けのワークショップや、地域のレストラン・旅館の啓発活動など、人材育成を行う。

その際、フードツーリズムマイスターの資格保持者による講習や、旅行プランの作成、関連人口に対する調査などで、研究会に参加する他社と連携することを提案している。これに対し、今回の研究会に出席した豊岡市大交流課の吉本努氏は「豊岡市で生産された農作物や漁獲物が、域内でどの程度消費されているかについては正確には把握していない。観光業との連携は重要だと考えている」と現状を踏まえながら回答した。

企業連携に対する行政の期待

建築物や公共インフラ整備を通じてまちづくりにかかわってきた山下ピー・エム・コンサルタンツ(山下PMC)は、企業の支援施策は地元のありたい姿に合わせて立案すべきと考えている。同社の見たところ、「豊岡にはたくさんの強みがあるが、これらをまとめる物語がまだない」。わき役も含めた物語を5つ束ねて地域の姿を作るのが理想という。

現在の豊岡市は、2005年に旧豊岡市と城崎町、竹野町、日高町、出石町、但東町が合併して生まれた。市の面積は兵庫県で最大だ。市内の各地域それぞれが求めるものも異なる。豊岡市でも、個性の強い地域が合併して1つの市となったメリットとデメリットを自覚している。吉本氏は、「一つの市内に様々な顔がある。そのトータルの魅力で売っていきたい。場所ごとに描いた物語を統合して、豊岡という街が見えればよいと思う」と話した。

研究会に参加する各企業は様々な技術や製品、サービスを提供している。このため、今回の研究会で大きな議論となったのは、豊岡市への提案のテーマを何に集中させるか、という点だ。

これに対し、吉本氏は、課題を1つに絞り込むのは「この場ではまだ早い」と応じた。豊岡市が解決したいと考えている課題は多岐にわたる。欧米からの城崎温泉への訪問客や、神鍋高原エリアへのアジア圏の観光客を増やしたいという思いもあれば、若者のUターンを増やしたい、豊岡鞄やコウノトリ米のブランド化を推し進めたい、という要望もある。さらには、豊岡市全体として、観光客の受け入れに対するまちの在りようへの議論があり、これを考えることも市役所のミッションとなっている。

研究会に参加した企業に対する市の期待は、顕在化している問題の解決にとどまらない、企業ならではの新鮮な発想にある。豊岡を新たな視点から眺め、地元では気付かなかった魅力を発見してほしいという。「豊岡市としては、ローカルにこだわりつつも、企業の最先端の知識や技術を借りて、世界に発信できる魅力を持ちたい」と吉本氏は話した。

研究発表フォーラム

【公民連携】自治体×企業の協業で解決する地域課題の最先端
~豊岡市と先端的5社の事例から考える、地域イノベーションと公民連携マッチング~

■日程
3月15日(木)13時30分~17時30分

■概要

城崎温泉を有する豊岡市は、わずか5年で訪日外国人観光客を40倍 以上に増加させ、特産のコウノトリ米はブランド米として、毎年、早々 と売り切れるほどの人気ぶりです。今や、地方創生の成功例としてメディ アで紹介される同市ですが、目指す理想の姿には、まだ道半ばといい ます。

これから、数々のイノベーションが必要となりますが、そこで重要 なことは、民間企業との連携です。今回は、事業構想大学院大学主催で、 豊岡市と全国で先端的な取り組みを行う民間企業5社、NTT ドコモ・ 花王・JTB・日本航空、山下PMC が参画し、独自のノウハウを豊岡 にどう役立てるか、研究してきました。その成果を発表するとともに、 他地域への応用可能性を含めた、地域活性へのキーファクターを抽出 していきます。会の最後には、公民連携・マッチングの場を用意して います。ぜひ、自治体と企業の双方にご参加いただきたいと思います。

■定員
150名(先着順) 参加費は無料(事前登録制です。必ずご登録ください。)

■お問い合わせ先
学校法人 先端教育機構 事業構想大学院大学
TEL:03-3478-8402 Mail:pjlab@mpd.ac.jp