「言論の力」を取り戻し未来の日本を拓く、ほか注目の新刊
監修者の東浩紀氏が、自ら主宰する論壇誌を起点に、文学と政治の界面、批評の実践的役割を問い直す。「批評は、あるときは大学に近づき(『現代思想』)、あるときはメディアに近づき(ニューアカ)、あるときはサブカルチャーに近づき(ゼロ年代)、またあるときは政治運動に近づいて(デモ)生き残りを図ったが、そのいずれも大きな成果は挙げていない」(4ページ)。本書はかくも未定位な「批評」の新たな未来を構想するために企画された。
社会動向を見通す 批評の使命
そもそも、批評とは現代日本において、実践的にどう位置付けられるのか。自らも批評家として多様なメディアで言論活動を行う東氏は「戦後日本固有の病」と断じる。本書がその「屈曲点」と見る1970年は、世界的には1968年に象徴される「新しい社会運動」の全盛期であり、日本では安保闘争をはじめ学生運動という形で言論が最高潮に達し、終息=収束した時代である。本書はここを契機に、「文学と政治がまともな関係を結べなくなった」という前提(反省)から出発し、現在に至るまでの40年間を俯瞰する。
批評が政治と切り結んだ「病」の解剖は、人文知が現実とどう切り結び社会動向を見通せるのか、という問いにもつながる。過去の営みを自省し、未来を見通す共同作業は、折しも、昨今の「文系不要論」にも異議を申し立てうる、時に鋭利で重い洞察に満ちている。
対論が生む 知的スリルと創発
本書では時代区分に沿って、ポストモダン的批評誌『現代思想』(青土社)の発刊と変遷、批評のサブカルチャー化・分節化など、各言説が対談形式で丹念に検討される。江藤淳や加藤典洋から、柄谷行人、浅田彰、上野千鶴子、宮台真司まで、論壇知識人を総覧する議論の厚みは類を見ない。
東氏自身を含め、共同で執筆にあたった社会学者・批評家はみな1970年以降の生まれ。気鋭の論客が交わす問いと応答の数々は、時にアイロニカルであり、スリルに溢れる。平成後期の批評を取り扱った続刊は2018年2月に刊行予定である。
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