2020年、完全自動運転が実現? 日本発、学習するAI

自動車メーカーだけでなく、Googleなども参入し、自動運転をめぐる競争は激化している。その市場において、存在感を高めているスタートアップが、アセントロボティクスだ。2020年までに、ドライバーの関与を不要とする「完全」自動運転車の実現を目指している。

フレッド・アルメイダ(アセントロボティクス 創業者・チーフアーキテクト)

2017年11月、ラスベガスで自動運転のバスが配送トラックと衝突する事故が起きた。自動運転バスは、配送トラックが後退してきたのを察知し、停止したものの、バスの存在に気づかなかったトラック側がそのまま動き続けて接触事故が起きた。

完全自動運転を実現するAI(人工知能)の開発を行う企業、アセントロボティクスの創業者、フレッド・アルメイダ氏は「その車のAIは、周辺環境の変化に応じた適切な判断ができなかった。これでは完全自動運転車とは言えない」と指摘する。

石﨑 雅之(アセントロボティクス 代表取締役CEO)

経験を通し、自己学習するAI

アセントロボティクスは、AIの専門家であるアルメイダ氏と、デロイトトーマツコンサルティング執行役員だった石﨑雅之氏が、2016年9月に日本で立ち上げたスタートアップだ。

図1 自動運転システムの定義

出典:国土交通省・資料

アセントロボティクスが開発しているのは、「経験を通して様々なことを学び、新たな状況に対応できるようになる」AIであり、ドライバーを必要としない「レベル4」「レベル5」(図1参照)の完全自動運転を実現する技術だ。

レベル3までの自動運転はドライバーの関与を前提にしており、与えられた地図データをもとに、限定条件下で決められたルートを走ることが想定されている。しかし、現実の路上では想定外のことが起こり得る。

人は、不安定な動きをしている車があれば車間距離をあけて運転したり、急な飛び出しの危険性があれば減速したりなど、「起こり得ること」と予測しながら運転をしており、それにより交通の安全は保たれている。

限定条件下での自動運転(レベル3以前)と、変わり続ける周辺環境を認識し、適切に判断・応答する完全自動運転(レベル4以降)の技術は根本から異なるものであり、アセントロボティクスが手掛けるのは後者だ。

日本発スタートアップの勝機

政府は今、自動運転の事業化に向けた取り組みに力を入れているが、そこで当面の利用シーンとして想定されているのは、物流の効率化を目指した高速道路におけるトラックの縦列走行や、限定地域における高齢者の移動支援などであり、レベル3の自動運転だ。

「レベル3の自動運転を実用化するには、高速道路の車線を区切って自動運転専用レーンをつくる必要があるなど、インフラを再設計しなければならず、多額の税金が使われることになります。また、過疎地における高齢者の移動手段としての期待もありますが、レベル3の技術で実現できるのは決められたルートを巡回することであり、バスのような役割に過ぎません」(石﨑氏)

住居から病院まで高齢者を連れてい くような自動運転を実現するには、レ ベル4以降の技術が必要になる。

「Googleは近年、自動運転の技術開発に力を入れてレベル1~3の精度を高めてきましたが、レベル4以降は別の技術が必要とわかって、一度研究を仕切り直しました。グローバルでもレベル4以降の競争はこれからで、アセントロボティクスにも勝機があります」(アルメイダ氏)

現在(2017年12月時点)、アセントロボティクスには11ヵ国から集まったエンジニアがいるという。

「シリコンバレーの強さは、優秀な人材が集まってくることにありますが、世界水準の人材を集めれば、東京にいても競争力を高められます。また、日本には世界的な自動車メーカーがあり、日本を拠点にすることで、そうした会社との協業も進めやすくなります」(石﨑氏)

完全自動運転は社会を変える

アセントロボティクスが開発しているのは、自らの"経験"から学び、認識・予測・判断の精度を高めていくAIだ。それでは、必要とされる"経験"をどのように積むのか。従来なら、高速道路・一般道で走行実験を繰り返さなければならなかったが、アセントロボティクスは、実世界に近いリアルなシミュレーション環境を構築する技術を持つ。それが同社の強みの1つだ。

アセントロボティクスは、3D空間に「仮想の街」を再現し、そこで車を走らせてデータを取得。AIの効率的な「学習」を実現している

アセントロボティクスは、3D空間に仮想の街を再現し、そこで車を走らせて疑似データを取得。AIによる強化学習(良い結果をもたらす行動は強化され、不利益になる行動は弱められる)を素早いPDCAで回すことができる。疑似データとリアルデータの双方を用いることで、リアルデータのみを使用する場合と比べて「50倍以上の効率」でAI教育を行うことができるという。

アセントロボティクスは2020年までに、高速道路だけでなく一般道でも走行可能なレベル4の完全自動運転車用AIの実現を見込んでいる。政府が掲げる市場化のロードマップに先行し、技術開発を進めているのだ。

「2020年には、レベル4の完全自動運転車用のAI技術を自動車メーカーに提供することを目指しています。テスト用コンピュータなど、ハードの性能向上・価格低下も進んでおり、私たちが使いたい技術が、コスト的にもこなれてきます。完成車メーカーの技術導入が進み、2021年を転換点に、完全自動運転車の実用化が進んでいくと思います」(石﨑氏)

完全自動運転車が普及し、一度その快適さに慣れてしまえば、自分で運転するという行為に後戻りするのは難しくなるかもしれない。

完全自動運転により車両の稼働率が高まれば、一人一人が車を所有するよりも、ライドシェア(相乗り)のほうが効率的になり、車が売れなくなる可能性もある。自動車メーカーのビジネスはサービス化が進み、車中でのエンタメ提供などの市場が拡大することも考えられる。

他の産業への影響も大きい。自宅に駐車場を持つ必要がなくなれば、家づくりが変わってくる。例えば飲酒運転の取り締まり強化は、居酒屋市場の縮小をもたらしたが、完全自動運転は、そうした社会のルールの一つ一つに再考を迫るインパクトを持つ。

完全自動運転が社会を変える未来が近づいている。

 

フレッド・アルメイダ
アセントロボティクス 創業者・チーフアーキテクト

 

石﨑 雅之(いしざき・まさゆき)
アセントロボティクス 代表取締役CEO