DMOフォーラムin大阪 DMOで成果をあげる地域の条件

観光地域づくりの舵取り役として期待されるDMOの形成に向けた課題について議論する「DMOフォーラム2017in大阪」を10月10日に大阪市内で開催。「連携」をキーワードに議論が進められ「実利のある連携こそが重要」との認識で一致した。

DMO推進機構、関西観光本部、事業構想大学院大学が主催、歴史街道推進協議会が運営協力で開催された

大社充 事業構想大学院大学 客員教授、DMO推進機構 代表理事

大社 皆さんのこれまでの取組みについて「連携」をキーワードにしながらお話をいただきたい。

多田稔子 田辺市熊野ツーリズムビューロー 会長

多田 田辺市熊野ツーリズムビューローは、田辺市の合併後、世界遺産の「紀伊山地の霊場と参詣道」で市内を通る中辺路ルートができたことを契機に各市町の観光協会で一緒になって設立された。ターゲットを欧米豪の個人旅行客に定め、カナダ人男性を採用して看板の整備、情報発信などに努めた。魅力を発信し続けていれば宿泊客は増えると思っていたがエリア内の宿泊施設において言葉と決済の壁が立ちはだかった。そこで中間支援組織として着地型旅行会社を設立した。必要に迫られ、和歌山県、三重県、奈良県の十津川村などと広域に連携することになった。登録している宿は現在150ある。世界中から参道へ観光客が来るようになり、地域の誇りが再構築され、地域の価値が高まったと感じている。

今井紳二 海の京都DMO 取締役 総合企画局長

今井 京都府北部の道路網整備が進んだのを受け、2016年6月、府と7市町で京都府北部地域連携都市圏振興社(海の京都DMO(Destination Management / Marketing Organization))を設立、各市町の観光協会をそこに統合した。多様な関係者の合意形成の仕組みとして、京都銀行から社長を招き、副知事が副社長を務め、府と7市町の職員が社員になっている。市町ごとに地域本部を設け、地域本部長会議、観光地域づくりマネージャー会議を毎月開催している。バス運行の実証実験、着地型商品の開発にも取り組んでいる。本年度の主要目標として、WiFiデータの収集・分析などをふまえターゲットを絞ったプロモーションなど総合プロデューサー機能の強化、入込客数、一人当たり観光消費額の増加を図るなど地域の稼ぐ力の創出を掲げている。

井戸 関西はそれぞれ特徴の異なる南北3つに分けて広域連携するのが分かりやすいと考えている。一つは京阪神と姫路・堺・大津・奈良・伊勢志摩などの中央部、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を中心とする南部、近江・若狭・丹後・但馬・丹波・淀川を結ぶ環状高速道路を軸とした北部だ。広域組織、官民連携組織の運営に30年かかかわってきた経験からすると、①スケールメリットの追求、②役割分担、③ノウハウの積極的交流が連携のカギを握ると考えている。DMOにおいてもそれぞれが「ならではもの」に特化することが重要だ。守備範囲はマーケティングやプロモーションにとどまらず、まちづくりや制度改革にまで及ぶことも忘れてはならない。

森健夫 関西観光本部 理事 事務局長

森 関西観光本部は関西の各府県・政令市・経済団体・観光団体など官民62団体による広域DMOとして2017年4月に設立された。関西全域へのインバウンド推進を目的とし、誘客方策の方向性を示した「KANSAI国際観光指針」をまとめた。指針では2020年に関西への訪日外国人訪問率を現状の40%から45%に高める目標を掲げている。関西統一の交通パス「KANSAI ONE PASS」や府県ごとに取り組んでいる無料WiFiを束ねた「KANSAI FREE WiFi」のデータを動向調査に活用するほか、10月から観光事業者が外国語対応に困った時に24時間利用できる「多言語コールセンター」のサービスも始めた。関西だけでなく全国の広域DMOとも連携を図っていきたい。

大社 高橋先生は今回のフォーラムで 「連携」というキーワードを出された。その意図は。

高橋一夫 近畿大学 経営学部 商学科 教授

高橋 DMO設立後の課題として、安定的な財源、組織を動かす人材、組織のマネジメントが挙げられる。この課題を解決していくためには、人的資源の共有など連携が欠かせないのではないかと見ているからだ。

今井 インバウンドのプロモーションは経費の面から単体では難しい。例えばわれわれでできないところを広域の関西観光本部に担っていただけると助かる。

森 一緒にやったほうが安く済む。海外の市場を開拓する際も単体ではなく束になって取り組むべき。観光で4回、5回と来てもらうためには周辺エリアと組めばさらに魅力が打ち出せる。そういう意味でも連携は重要だ。

井戸智樹 歴史街道推進協議会 事務局長

井戸 「海の京都」では、北近畿の隣接するエリアとの連携は考えているのか。

今井 例えば隣の兵庫県の城崎温泉は競合でもあり府県をまたがる連携はなかなか難しい。来訪者にとっては兵庫県だろうが京都府だろうが関係ないので、どのように連携し、効率的にプロモーションができるか考えていかなければならないと思っている。

井戸 全部べったり連携する必要はない。部分で連携すればよい。

多田 事業の運営、継続を考えるとどうしても財源の問題に行き着く。ヒントをいただきたい。

高橋 東京が法定外目的税として宿泊税を導入したのは2002年のこと。年、釧路における入湯税の超過課税、奈良・吉野山の交通マネジメントの協力金などの議論を見ると利用者の多くが、お金の使い道がはっきりしていれば負担してもよいと考えるようになっている。この機運を生かさない手はない。DMOが事業の方向性を明らかにし、それが評価され共助で負担してもよいというような流れができれば、緊張感が生まれ、DMOの質も上がっていくのではないか。

多田 そのような仕組みを作っていく上でも連携をしていきたい。

大社 連携の話しで言うと、ある県の県コンベンションビューロー、広域組織、民間事業者の3者が同一エリアの観光パンフレットを作っていたが、一番評価が高かったのは民間のフリーペーパーだった。それならば民間に任せたほうがいい。横だけでなく縦の連携における効率化も不可欠だ。

多田 理想として連携が大事なのは分かるが、本当にメリットがなければ絵に描いたもちに終わる。うまくいけばおのずと広がっていくと思う。

高橋 その通りだ。地域連携でパンフレットを作るとき「同じ額の分担金を払っているのによそより写真が2枚少ない」と文句を言った自治体があった。そこには消費者目線のかけらもない。マーケットニーズに沿って成功事例を作ることでしか連携は成功しないだろう。関西観光本部で多言語対応のコールセンターを新たに開設したという話があったが、そのようなサービスは関西のDMOで共有すればよいわけで、同じようなものを作る必要はない。そのような連携が生まれることで、観光マーケティングできる人材も一緒に育成しようというように次のステップに進んでいくのではないか。観念的でなく実利的にやればおのずと連携につながっていく。

大社 隣町で連携する場合、マーケットが重なるところがあれば組みやすい。あと箱根町と小田原市の例で言うと、箱根町の観光施設で働く人の多くが隣の小田原市に住んで暮らしている。箱根が伸びれば小田原の経済も良くなるという構造にある。マーケットや経済構造を「見える化」すると連携もしやすくなる。

NTT西日本が協賛として参画。観光データマネジメントプラットフォームについての展示