『「学習する組織」入門』/学習の質を磨き、更に機能する組織へ

―センゲ著『学習する組織』邦訳発刊から6年、ご執筆の狙いは何ですか。

今日、社会はますます複雑化し、組織はかつてない「学習」の必要性に迫られています。また社会に存在する人的・知的資源を活用する「多様化」も課題です。古きに響きつつ、同時に時代の新しい要請に応える技法と実践を著したいと思いました。同じテーマで6月に刊行した漫画版が一つの物語に沿った基礎的な手法を紹介するのに対して、本書は適宜事例や演習を交え同書の理論体系を紹介しました。

―『学習する組織』は何が読者の注目を惹いたとお考えでしょうか。

過去にもビッグ3がトヨタ自動車の生産体制を「リーン型生産システム」として導入するなど実践はありましたが、上手くいきませんでした。形だけを真似ても移植が成功しない事実を示しており、まず個のメンタル・モデルや組織文化の醸成が肝要です。

アジャイル開発やフューチャー・セッション等、多様な利害関係者が話し合う場は、直接・間接に「学習する組織」を成す三つの柱――対話・複雑性理解・志――から派生したものです。

―「学習する組織」が新規事業の構想に与える示唆とは何ですか。

本書の後段では応用編として、適応型・創発型学習にも触れています。ただし基本は蒔いた種としてのアイデアが芽を出し育つうえでの、いわば自己組織化に関する実践が重要です。特に社会課題にシステム思考を導入すると、レバレッジに繋がる、「筋の良い問いの立て方」ができるようになります。一人ひとりの着想も、立場・位置についての個人的な固執というバイアスを取り去ることで、質が向上します。

―どんな読まれ方を期待しますか。

ビジネスの世界には困難な問題が多数残り、かつ深刻化しています。従来のリーダーやエキスパートの役割にも限界が来ています。本では「目指す形は自分たちで自己組織化して見出すべき」と提唱していますが、組織の進化を推奨する土壌が育つと良いですね。読者の皆様が関わる地域や業界の課題に合った、新しい組織のあり方を選び取っていく手がかりのハンドブックとして大いに活用され、センゲらの手法に倣う実践者が増えるよう願っています。

「学習する組織」入門

−−自分・チーム・会社が変わる
持続的成長の技術と実践

  1. 小田理一郎(著)
  2. 本体1,900円+税
  3. 英治出版

 

 

小田 理一郎(おだ・りいちろう)
チェンジ・エージェント代表取締役

今月の注目の3冊

勉強の哲学

−−来たるべきバカのために

  1. 千葉雅也(著)
  2. 本体1,400円+税
  3. 文藝春秋

 

勉強とは単なる新たな知識の習得過程ではない。敢えて言えば、これまでの自分を破壊して新たな言語体系という「ノリの悪さ」を身に付けることである。これまでの勉強観を、自由の可能性を拓く「変身」として覆し、言語論を起点にした独自のサイクルによって課題抽出・文献リサーチ・執筆といった勉強の様々な技術を深めるアプローチを提示。着想や創発の質を高めるうえで示唆に富む一冊。

 

DMO
観光地経営のイノベーション

  1. 高橋一夫(著)
  2. 本体2,400円+税
  3. 学芸出版社

 

観光地経営のプロフェッショナル組織「DMO」とは何か。国内外の先進事例を紹介し、日本版DMOの導入・運営のポイントを導く。従来の観光振興から脱却し、特にマーケティング・経営学の観点から「いかに観光地が自ら誘客と地域産品開発を進め、地域ブランドを高めるか」を実践的に追求する。日本の地域活性化の主要産業と目される観光業の新しい潮流を掴むうえで示唆的な一冊。

 

商売は地域とともに

−−神田百年企業の足跡

  1. NPO法人神田学会
    東京大学 都市デザイン研究室(編)
  2. 本体2,800円+税
  3. 東京堂出版

 

日本有数の老舗企業が集積する街・神田。食堂から病院・製薬、出版社に至るまで、なぜこれほど百年企業が多いのか。街に息づく事業のあり方の本質とは何か。東京大学都市デザイン研究室の3年に亘る地域密着プロジェクトの成果。NPO法人神田学会の40年に亘る取り組みと「百年企業のれん三代記」を踏まえつつ、人と企業・まちの結びつきから、地域と企業が共に育て合う関係を描く。

 

名著

構造災----科学技術社会に潜む危機

私たちが生きる社会は経済・政治・科学など様々なセクターが織りなす複合的な構造を持っている。聞き慣れぬタイトルの本書は、こうした当たり前のことを気づかせてくれる。とりわけ、本書で言及されている「福島原発事故」は、こうした社会の構造が引き起こしたものにほかならない。えてして、こうした危機を我々は、一個人の誤りによる「人災」や人智を超えた「天災」に帰する視座をとりがちである。しかし、その中に生きているからこそ構造的要因が見落とされがちなのである。我々に今まさに足りないのは、「構造」や「全体像」を把握する鳥瞰的視点である。しばしば見逃されがちな点を暴き、問題解決への道筋を探る本書の視座は事業構想の参考となるであろう。

川山竜二(事業構想大学院大学 准教授)

 

構造災

----科学技術社会に潜む危機

  1. 松本三和夫 (著)
  2. 本体720円+税
  3. 岩波書店(岩波新書)