ECを活用、小さな村の基幹産業に

人口400人強の和歌山県北山村が、ECサイトを活用し、柑橘系果実の「じゃばら」を年商2億円の特産品に育て上げた。その運用で培ったノウハウを今はふるさと納税にも活かし、さらに太くなった収入の柱を村の観光振興に生かそうとしている。

ECを活用し大ヒットしたじゃばら。「邪気を払う」ほどに酸っぱいことが名前の由来

ドラマはたった1本の原木から始まった。強い酸っぱさの中に苦くふくらみのある甘みを持ち、「邪気を払う」として重宝されてきた「じゃばら」。村では昔から正月料理に使われる縁起物の食材だったが、いつしか木も減り、村に1本だけが自生するだけになっていた。「なんとかこの味を後世に残したい」という所有者の思いに村が応えたのは1972年のこと。まず8ヘクタール分の農園を確保し、原木からの接ぎ木でパイロット生産をスタート。以降、山間部ゆえの限られた耕地の中で作付面積を徐々に増やしていく。

北山村は、和歌山県に位置しながら県内のどの市町村とも隣接していない全国でも唯一の飛び地の村だ。古くから林業で栄え、伐採された木材は川を使って運ばれたことから、かつては筏を操る筏師が人口の多くを占めていた時期もあった。だが、1960年代にダムが建設され、筏師は姿を消してしまう。核となる産業がない村はじゃばらの特産品化を目指し投資を続けたものの、91年から99年までは生産調整を余儀なくされるなど赤字経営が続いていた。

「EC活用×花粉症効果」で一気に火が付く

平成の自治体大合併の機運が県内の市との合併案が議論される中、「じゃばらのようなお荷物を抱えていたら合併話が進められないという危機感がありました。かといってどうしてよいかもわかならい状態でした」と北山村長の山口賢二氏は当時の状況を振り返る。

左:山口賢二 北山村 村長 右:池上輝幸 北山村 地域事業課 主査

そんな折、すがるような思いで楽天市場への出店を2001年に決めた。しかし、ただ出店するだけではインパクトがない。かねてより「じゃばらが花粉症に効く」という評判を確かめようと、モニター調査を実施した。46%の人から「効果があった」と回答が寄せられた。楽天市場に自治体が出店したという珍しさも手伝って取材に訪れたテレビのディレクターにその結果を売り込んだ。番組に取り上げられると一気に火が付くことになる。

「モニター調査は冗談でやったような企画でしたが、まさかの結果に私たちも驚きました。酸味が強い香酸柑橘類が健康に良いという評価が定まりだしたタイミングだったことにも後押しされました。勝手がわからない中で、マーケティング、商品づくりを地道に進め、需要に応えていきました」。2000年に2500万円だった年間売上は、01年に5000万円、02年に1億円に増え、05年には2億円を突破する。

使途は小中学生の英語教育に

村内でも知らない人の多かったじゃばら。知名度が向上したことで、贈答用に使う村民が増え、生産したいという農家も現れた。現在村内の生産農家は20人強、加工業者や村の関係者も含めじゃばらに何らかの形でかかわっている人の数は80人ほどで、全村民の2割を占めるまでになっている。

また、収益の使途もユニークだ。子どもたちに早くから世界に視野を広げてほしいとの思いから、英語教育に投資。毎週木曜日に保育所から中学生まで英会話教室を開き、中学卒業時までに英検準2級取得を目指している。また中学生では集大成として夏休みの期間を使ってアメリカフロリダ州オーランドへ2週間語学研修があり、これらの渡航・滞在費用まですべて村が負担している。「1学年数名ほどの児童・生徒の数ですが、コンプレックスを持つことなく堂々と巣立っていってほしいと考えています」。

ECサイトとふるさと納税サイトは両立する

北山村が、楽天市場ふるさと納税サイトへ出店したのは15年7月のことだ。返礼品としてじゃばらとその加工食品のほか、北山川での筏下り、ラフティング、温泉宿「おくとろ温泉」での宿泊をそろえた。「私自身、その当時おくとろ温泉に出向していたので利用客を増やしたいという思いが強くありました。じゃばらだけに頼るのではなく観光産業を振興させるためにはふるさと納税を活用するしかないと考えました」と、北山村役場地域事業課 主査の池上輝幸氏。狙いどおり、おくとろ温泉の利用者増につながり、じゃばらの売上増にも寄与している。

ECサイトとふるさと納税の二つを活用できている自治体はまだ少ない。二つをどのように共存させられるかの見通しがつかずためらっている自治体も多いと考えられるが、池上氏は「ECサイトは花粉症対策を考える方、ふるさと納税はある程度富裕層の方というようにターゲットは全く別であり、両立できると考えています。ECサイトは比較的若い層が多いのに対し、ふるさと納税は中高齢者が多いので世代のターゲットも異なってくると思います。入り口は違っても結果的に北山村のことを知って、来て、買っていただくことが村の目的です」。

ECサイトのノウハウはふるさと納税サイトの運営にも生かされている。レビューには「配送が速い」「梱包がしっかりしている」などのコメントが並び、評価点数もトップを走っている。「専門のシステム担当者を置いていますし、他の自治体には寄附額では負けてもサービスでは絶対に負けたくないという思いがあります」。

北山村では近い将来、じゃばら事業の民営化も視野に入れる。「ECサイト、ふるさと納税含め固定客につながる仕掛けを常に考え、ひとり立ちできるようにしていきたい」と池上氏。あくなきへの思いがじゃばらの快進撃を支えている。

ECやふるさと納税で販路を拡大したじゃばらを活用し、商品を多数開発。じゃばら果汁を使ったジュースは大ヒット商品だ

 

 

お問い合わせ

  1. 楽天株式会社
    楽天市場事業 ふるさと納税事業グループ

  2. TEL:050-5817-7775
  3. Mail:ichiba-furusato-nouzei@mail.rakuten.com
  4. URL:http://event.rakuten.co.jp/furusato

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