配達時の「高齢者見守り」で成果 地域密着のセールスドライバーが活躍
自治体からの刊行物を配達時に、セールスドライバーが高齢者の安否確認を行う。青森県黒石市とヤマト運輸が連携し、2013年に始まった見守りの取り組みは、独居高齢者が安全・安心に暮らせる生活環境づくりで、成果をあげている。
青森県黒石市では急速な高齢化が進み、現在高齢化率は29.4%、住民のおよそ3分の1が高齢者だ。さらに全戸約1万3000世帯のうち、950世帯弱が独り暮らしの高齢者である。
市では早くから、高齢化に対応した施策を続けてきた。2010年には独り暮らしの高齢者を対象に、かかりつけ医療機関や緊急連絡先などの情報をシートに記入してもらい、自宅で保管する「救急医療情報キット配布事業」をスタート、2011年には県の社会福祉協議会と連携して「緊急通報装置給付貸与事業」を行った。
しかし、黒石市地域包括支援センター所長補佐・木村哲二氏によると、そうした取り組みでは解消できない課題があったという。
「これまでの取り組みでは、日常生活に不安を感じる高齢者、つまり希望者のみの利用で、すべての独り暮らしの高齢者を見守ることはできませんでした。高齢者の中には、『自分はまだ大丈夫』と考え、支援に抵抗を感じる方もいます。また、民生委員の負担軽減も課題となっていました」
地域に合ったサービスを設計
そうした課題を解決するため、黒石市はヤマト運輸との協業を決定、2013年から運用を開始している。
当時、ヤマト運輸はすでに他の地域で、買い物支援を兼ねた見守りの取り組みを展開していた。しかし黒石市は、移動販売車が山間部もカバーしているため、買い物品の配達に限定しない、市が発行する刊行物の配布を兼ねた見守り専用のサービスとなった。
他の自治体でも前例のない取り組みであったが、何よりも希望者だけでない、全独居高齢者世帯にアプローチできる取り組みであったことから、黒石市は導入に踏み切った。
「職員への負担が少ないことも、導入の決め手の一つになりました。多くの場合、新たな施策のスタート時は担当者の負担が増えるものですが、今回は、袋詰めや宛名書きなどはヤマト運輸さんが担当しますので、こちらは印刷物をお渡しするだけです。民生委員の負担も増えることなく、安全・安心に暮らせる環境づくりができています」
今回のサービスでは、ヤマト運輸のセールスドライバーが市の刊行物を直接、独り暮らしの高齢者に手渡して安否確認を行う。配達時の情報は市にフィードバックされるため、市も素早く対応できる。
「高齢者をターゲットに、ピンポイントに届けられる仕組みでもありますので、効果的な情報発信にもつながっています」
セールスドライバーは顔なじみ
元気な高齢者は外出していることも多く、1度訪問しただけでは全員に手渡すことは難しい。黒石市の取り組みでは、訪問したセールスドライバーが直接本人に会えるまで3回訪問、それでも会えない場合は郵便受けに投函し、市に報告する。
セールスドライバーと連絡がとれない高齢者には、市からの電話連絡、民生委員の派遣といった連携したオペレーションで対応する。一軒一軒すべての該当世帯を確認し、不在のほか、郵便受けに郵便物が溜まっている、普段と違い昼でもカーテンが締めっぱなしなど、不安要素がある場合にも報告が届く仕組みだ。
運用を始めて3年経つが、訪問したセールスドライバーが異変を察知し、救急搬送に至ったケースが3件。同じ担当者が訪問することで、いつもと違ったささいな変化を感じやすく、異変にも気付きやすい。
「家族と離れて暮らすお宅では、セールスドライバーさんの訪問を楽しみにしている方もいらっしゃいます」
自宅にやって来るセールスドライバーの存在が、独り暮らしの高齢者にとって新しい「ご近所さん」になりつつあるのかもしれない。住み慣れた家でいつまでも安心して暮らせる環境づくり。多くの企業が高齢者向けサービスを展開しているが、自治体が切に望む「地域にまんべんなく」をかなえるサービスはまだ少ない。黒石市とヤマト運輸の取り組みは、その新しい形を見せている。
集配業務によって地域の住民と直接対面する接点を持つヤマト運輸は、住民の声を聞き、その困りごとを解決する多様なサービスを提供できる。通常の宅急便需要が生まれにくい地域においても、工夫して持続可能な仕組みを整え、次々と新サービスを生み出してきた。
見守りの取り組みもさまざまな形に対応し、さらなる展開を目指している。自治体の課題に応えるプロフェッショナルとして、ヤマト運輸は挑戦を続けている。
Column
地元商店の活性化にも貢献
地域が抱える「困りごと」を解決
ヤマト運輸は青森県黒石市だけでなく、他の地域でも、見守りの取り組みを行っている。
高知県大豊町では、買い物支援と組み合わせて、高齢者の安否確認を行うサービスを展開。大豊町の高齢化率は、55%を超える。そうした中で、大手スーパーが「ネットスーパー」を開始したため、地元商店からは顧客流出を心配する声が出ていた。しかし、地元商店だけで、大手の「ネットスーパー」に対抗するようなサービスを実現するのは難しい。そのとき、連携先として名前が挙がったのが、毎日地域を回って配達を行っているヤマト運輸だった。
商工会、大豊町役場、ヤマト運輸で協議を重ね、最適なサービスを検証。ヤマト運輸は集配コースの見直しを行い、運賃設定や梱包資材など、さまざまな提案を行った。そして、住民が地元商店に商品を注文し、それを当日配達する仕組みを実現したのである。
ヤマト運輸のセールスドライバーが、配達時に高齢者の安否確認も行う。運用開始後も住民との意見交換を行い、サービスを拡充していった。
大豊町で始まった買い物支援は今、近隣の仁淀川町でも実施されている。さらに、高知県から依頼を受け、県外からの移住を支援する取り組みや、地域産品の海外販売を拡大する取り組みも始まった。県全体でさまざまなサービスが展開され、ヤマト運輸の総合力が発揮されている。
お問い合わせ
- ヤマト運輸株式会社
- URL:http://www.kuronekoyamato.co.jp/chiikishien/top.html
- TEL:03-3541-3411(代表)
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