仕事と介護の両立を支援 介護情報サイトKAIGO LABの挑戦

介護している事を周囲に打ち明けられず、仕事との両立に悩むビジネスパーソンは多い。日本社会の礎を担うビジネスパーソンを支援する介護情報サイト「KAIGO LAB(カイゴラボ)」が2015年9月1日に立ち上がった。

KAIGO LAB(カイゴラボ)

スマートフォンでも読みやすいように設計されている

このサイトは、私自身の20年以上に及ぶ介護経験を、お蔵入りさせるのではなく、広く介護に悩んでいる人々と共有したいという「想い」で立ち上げたものだ。お恥ずかしい話だが、市場分析や戦略といったものもなく、ただこの「想い」だけでスタートさせた。

開始後1ヶ月で約2万人が訪れるサイトに成長

気軽に続けるつもりだった。しかし、いちばん初めに投稿した記事が、いきなり1,000人以上に読まれるという事態になった。そこからは、おせっかいな教員としての私の性格柄、気楽なサイトとは程遠いものになっていく。今では毎日3本以上の記事を自ら執筆・編集し、更新・メンテしている。幸い、介護については20年以上の蓄積がある。書くテーマの選定については困らない。気がつけば、初月が終わっていた。

結果として、開始後の1ヶ月で「KAIGO LAB(カイゴラボ)」を訪れたのは約2万人、アクセス数は約10万アクセスとなっていた。これはもはや、気軽なサイトとしては運営できない。私のライフワークの一つとして、本気で関わっていくものとなった。今は、年末までに月間50万アクセス、来年末までに月間300万アクセスを目標として、組織での運営体制を整えつつある。

酒井 穣(事業構想大学院大学 特任教授)

介護サービス利用のノウハウ、仕事と介護の両立に役立つ記事

ここからは、ビジネススクールの教員としての得意分野である。莫大な広告宣伝費を使うことなく、いきなり約2万人が訪れるサイトというのは、そう聞かない。たしかに運がよかった。しかし私は、その原因を「こういうことだろう」と想像するだけで満足する性格ではない。

私は、粘着気質なのだ。訪れてくれた人々の中で、特にFacebookでコメントを残し、シェアをしてくれた人々に、かたっぱしから連絡を入れ、直接話をうかがった。せっかくなので、同意してくれた人については、ご本人の介護体験談を聞き出し、「KAIGO LAB(カイゴラボ)」にてインタビュー記事にしている。この20人程度のサンプルへのインタビューから見えてきたことは、以下のような3つの事実(または印象)に集約される。

  1. (1)介護に関する情報は分散されていて、それをワンストップでわかりやすく説明する介護情報サイトが皆無であったこと。既存で有名な介護情報サイトは、特定の商品(人材紹介、介護施設紹介など)の集客サイトがほとんどで、独立系の介護情報サイトで有名なところがなかったこと。
  2.  

  3. (2)介護に苦しむビジネスパーソンをターゲットとして、ノウハウを紹介するサイトが皆無であったこと。既存の介護情報サイトは、医療従事者や介護のプロ向けだったり、専任で介護に関わる専業主婦のためのサイトという具合に、ターゲットがビジネスパーソンには設定されていない。
  4.  

  5. (3)サイトの記事がニュースではなく、そもそも論、介護サービスの背景や利用の注意点、ノウハウであること。また、ライターが介護の視点だけでなく、人事コンサルタントとしての経験から、仕事と介護を両立するキャリアに配慮した記事を更新していること。

 

これから「KAIGO LAB(カイゴラボ)」が目指していくこと

日本の福祉サービス最大の弱点は、利用したいサービスを自ら「これ」と申請しないと、それを利用できないことにある。しかし、特に介護の世界は複雑で、そもそもどのような介護サービスがあるのかを理解しにくい。知らないと使えない、知らないと損をする、知っている人だけ助かるというのが、日本の介護サービスの特徴なのである。

また、日本には「介護は親族の中の誰か1人が専任で関わるものだ」という固定観念がある。この「1人」に選ばれてしまうと、自らのキャリアを犠牲にしないと介護がこなせない状況になる。事実として、ヘルパーを雇うだけで、親戚筋からは「他人に親をまかせるなんて」という非難を受けるのが普通だ。それが、介護のプロの世界でも意外と浸透している。

仕事をしながら介護をするということについて、社会的な合意ができていない。こうしたことから「KAIGO LAB(カイゴラボ)」の使命を、介護に必要となる情報をわかりやすく提供することで「仕事と介護の両立」に悩むビジネスパーソンたちの負担を少しでも減らし、もって、日本社会の礎であるビジネスパーソンたちの活躍を支援すること、と定めた。

また、介護のプロに対しても、要介護者の支援という視野ではなく、仕事と介護の両立を目指すビジネスパーソンのコンサルタントとしての視野を得てもらうための一助となりたい。

教員としてビジネスを生徒に教える立場で、よく伝えてきたことがある。それは、イノベーションというのは、最初は誰にも理解されないということだ。そのため、周囲からの反対を受けやすい。事実、私がこのサイトを立ち上げるにあたっても、少なからぬ反発を受けた。「想い」があっても、失敗する事業は多い。

酒井 穣(さかい・じょう)
事業構想大学院大学 特任教授
 

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