タクシー、孫旅、授乳室アプリ・・・ 子育て市場の多様な可能性

子育て支援・育児関連ビジネスには多様なチャンスがある。育児製品やアプリ、レジャー、教育サービスなどの分野別に事業参入のケースを取り上げ、成功の要因を考える。

ズーム・ティーの「ドクターベッタ哺乳びん」は、大企業が林立する成熟市場に中小企業が新規参入したモデルケース

成熟市場への参入チャンス

独特なカーブが特徴の「ドクターベッタ哺乳びん」。主力製品の価格帯は約3000円と哺乳びんとしては高価だが、母親から絶大な支持を受けており、近年では中国人観光客らの“爆買い”の対象にもなっている。製造・販売を手掛けるのは資本金1000万円の中小企業、ズーム・ティー。大手企業が林立する市場に、後発の同社はどのようにブランドを築きあげたのだろうか。

まず、母親の課題解決に直結する製品だったこと。ドクターベッタ哺乳びんのカーブ形状は、母乳授乳と同じ「理想的な姿勢」で授乳できるように工夫されている。従来品では幼児は寝た姿勢になってしまい、ミルクが咽頭の細菌と一緒に耳管に流れ込み、中耳炎にかかるリスクがあった。ベッタ哺乳びんは耳への逆流も防げることに加えて、飲んだ後のゲップや吐き戻しが少ない利点がある。

もともと、この製品は1993年にアメリカの小児科医によって発案され、1995年にズーム・ティーの河合とも子社長が製造・販売ライセンスを取得、日本で発売した。当時はプラスチック製しかなかったが、同社は傷がつきにくく長期使用が可能で衛生的である、ガラス製の独自開発を決断した。しかし、複雑な形状を耐熱ガラスで大量生産することは難しく、委託製造先の探しは困難を極めたという。苦労の末行き着いたのが、東京都内に2軒しか残っていない手びねりガラス工場・奥谷硝子製作所。現在も、ガラス製哺乳びんは職人によって1つ1つ手作りされており、これもブランドの一要素となっている。

母親の課題に着目

ドクターベッタ哺乳びんと同じく、母親の抱える課題解決という視点から、「抱っこ紐」という成熟市場への参入を目指す事業者がいる。

玩具メーカーでキャラクターアパレル開発を担当していた齋藤久美子氏(事業構想大学院大学修士修了)は、妊娠を機に会社を退職、家業である子供服屋の事業継承を予定している。「母親の育児ライフが楽しくなるものを生み出したい」と考えたとき、着目したものが抱っこ紐だった。

「抱っこ紐」の開発に取り組む齋藤久美子氏(右)と碓田紗由里氏(左)

子どもを胸の前で抱くための抱っこ紐は、子育て中の夫婦に広く普及しているが、多くの人が使用しているのは海外製であり、日本人の体格にフィットしないものもある。アンケート調査を実施すると、利用者の9割が抱っこ紐に何らかの不満を抱えており、「使っていると肩や腰が痛くなる」「かさばる」という声が多かったという。

特に、姿勢の悪化は重大だ。産後の女性には体の変調が起こり、関節炎や腱鞘炎、肩こりなどにかかるリスクが増大する。こうした原因の一つに授乳時や抱っこ時の姿勢がある。「高齢出産の女性が増え、『自分の体を壊すから抱っこができない』と生まれた直後からベビーカーを使う人もいます。しかし、子どもの健やかな生育を考えたとき、抱っこはとても重要な要素です」(齋藤氏、碓田氏)。

日本人の体に優しく、簡単に装着でき、おしゃれな抱っこ紐を開発すべく、プロジェクトが動き出している。メンバーには、女性の姿勢教育指導にも取り組むカイロプラクターの碓田紗由里氏が参加、また海外でも活躍するアーティストのショウジョノトモ氏がテキスタイルデザインなどを担当する。

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